普段より時間をかけて考え、月島が彼女にしたことをリアルに伝えたくて、加害の場面もぼかさずにはっきり書いた。
「世界は細部からできているから、被害者、加害者が同じ光景のどこを見ているのか、それぞれに何が見えているのか、隅々をきっちり書きたいと思った」
読み進むうちに誰もがセクハラに無関係ではないことに気づかされる。読者からは「なかったことにしていた体験を思い出した」「加害を生む空気に加担していた」などの感想が寄せられている。
執筆は八ケ岳の麓の家で。散歩と食事を挟みつつ夕方まで机に向かう。その後は晩酌を楽しみ、海外ドラマを見たり本を読んだり。
「小説に役割があるとすれば、小説を読むことによって今まで考えなかったことを考えたり、話さなかったことを誰かに話したりすることだと思います。そうなってくれたらうれしいですね」
(仲宇佐ゆり)
※週刊朝日 2022年6月24日号