2013年、映画「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(以下「カノ嘘」)のヒロインにオーディションで選ばれデビューした歌手で俳優の大原櫻子さん。エンタメ業界の目利きたちが、こぞってラブコールを送る逸材だ。溢れるエネルギーの源泉は、芝居でも歌でもダンスでも、「好きという思いを届けたい」という気持ちの強さにある。
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彼女の芝居を、舞台という閉じられた空間の中で観たことがある人なら、おそらくほとんどの人が同意してくれるだろうが、大原さんは、ある種の“天才”のカテゴリーに分類される俳優である。舞台の上では、人間離れしたエネルギーを放出して、観る側を圧倒する。エネルギーの源泉はいったいどこにあるのかと質問すると、「子どもの頃、習い事をしながら身についたものかもしれないです」と答えた。
「ヒップホップの発表会に出たときも、ステージ上には20人ぐらいの仲間が並んでいて、いつも『この中で一番目立とう!』『私を見て!』という強い気持ちで踊っていました。そもそもレッスンがスパルタで、どんなに頑張っても、『もっともっと』と要求される。でもそんなレッスンをしんどいと感じたことはなくて、自分の限界を超えたときに、ただ無心で息をしているような、そんな不思議な静かな場所に行けたりするんです。言葉では表現しにくいけれど、何の欲も痛みも感じない。ただ透明な気持ちになれる場所に行ける。そんな経験を積んでいることが、力になっているのかもしれません」
「カノ嘘」のオーディションの朝、父親がかけてくれた言葉もまた、心に刻まれている。
「『今日、オーディションで歌うときに、たぶん緊張すると思うけど、でも、地球の裏側では戦争が起きていて、いつ死ぬかわからない子どもたちがいる。平和の中で、オーディションで好きな歌を歌えるだけでも、どれだけ恵まれているかを考えなさい。いつ死んでしまうかわからない子どもたちに届けるぐらいの気合で歌いなさい』と言われたことが、今も心に残っています。エンターテインメントって、誰かの心を救うことができるものだと思うから、思いを届けるためには、自分自身も、世界中の大変な人たちに思いを馳せて、『届ける』というエネルギーを保つことが必要なんだと痛感しました」