無事に救助されればよいが、体力不足による疲労が重大事故に結びつくことが少なくないという。
「疲れてしまって、下山中に集中力が切れてしまい、転落・滑落、転倒するケースが北アルプスではとても多い。特に頭部の負傷は致命的な重大遭難に直結します」
■ヘルメットのおかげで助かる
岸本さんによれば、たいてい「自分が遭難するとはあまり思っていない」と話す。そんな意識を少しでも変えてもらおうと、最近、長野県警山岳遭難救助隊では実際の救助現場などを撮影した動画を配信して注意喚起を図っている。今月は夏山登山に向けて3本の動画を配信する予定で、第1回は「ヘルメットの着用」がテーマだ。
「北アルプスのなかでも特に登山者が集中する穂高岳周辺には『大キレット』『ザイテングラート』といった有名な難所があります。みなさん、そういった歩きにくい場所では注意されるんです。ところが、それ以外の場所では気が抜けてしまい、足首をひねったりつまずいたりして転んでしまうことが多い。そこで頭を岩にぶつけてしまえば命の危険があります。そんなリスクを認識して、ヘルメットを装備に加えていただきたい」
動画ではベコリとへこんだヘルメットが映し出される。実際に遭難し、命が助かった人が装着していたものだ。
「ヘルメットがこれほど損傷していても助かった事例です。それがいくつも紹介できるくらい、最近はヘルメットの装着率は上がっています。不安定な岩がとても多い槍ケ岳や穂高岳に登る際には、ぜひヘルメットを着用してほしい」
昨年、長野県内の夏山(7、8月)で発生した山岳遭難は88件。うち、北アルプスは55件で、全体の62.5%を占める。全遭難者数は91人のうち40歳以上が88%と、中高年が圧倒的に多い。さらに91人中59人が男性だ。
「女性の場合、こちらがアドバイスすると、耳を傾けてもらえることが多いのですが、男性の場合は『目的達成型の登山』というか、天候が悪かったり、疲労がたまっていたりしても、自分の計画通りに山を登ろうとする方が多い。計画を柔軟に変更しない傾向がある」