まもなく梅雨が明けると本格的な夏山シーズンが訪れる。なかでも人気なのが標高の高い富士山と北アルプスだ。美しい景色と涼を求めて全国から登山者が訪れる。最近はコロナ禍での密集を避け、山に向かう人が増えている一方で、遭難者も増加している。警察庁によると、昨年の山岳遭難は全国で2635件と、過去2番目に多かった。特に近年は、安易な気持ちで入山し、遭難するケースが目立つという。地元警察に遭難の実態と登山の注意点を聞いた。
【静岡県警地域課のツイッターによる“わかりやすい”富士登山の注意喚起】
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「富士山は人気の観光地でもあるので、訪れる方の多くは県外からの登山者です。当たり前ですけれど、悪天候時の登山は思いとどまってほしい。『せっかく来たのだから登ろう』という考えはやめていただきたい」
静岡県警で山岳遭難対策を統括する地域課の嶋田浩之課長補佐はこう訴え、典型的な遭難例を挙げた。
「昨年8月に50代男性が亡くなったケースでは、御殿場ルートの8合目付近で倒れているのを発見されました。全身ずぶ濡れ状態で、低体温症で亡くなったと推測されます。前日は台風のような暴風雨でした。体にかぶる『ポンチョ』型の雨具を身に着けていたのですが、富士山は風が強いので、雨具がめくれ上がり、横なぐりの雨が吹き込んでしまったのでしょう」
夏富士での遭難死亡事故は、このような低体温症によるものが多いという。体が濡れた状態で強い風にあおられると、あっという間に体温が奪われて行動不能に陥ってしまう。思考力も著しく低下し、近くに山小屋があっても、そこに逃げ込むことを思いつかず、死につながる恐れがある。
富士山は「観光」の延長として、「簡単に登れる」「みんな登っているから大丈夫だろう」というイメージが強く、軽装で登る人が多い。しかし、標高が非常に高いため、気象条件は想像以上に厳しい。雨具は上着とズボンが分かれ、風をはらみにくい「セパレート」型が推奨される。
■遭難原因「体力不足」
さらに嶋田さんは「富士登山は山頂がゴールではありません」と強調し、こう続ける。
「夏富士での遭難の実に約9割が下山中に発生しています。下山口に無事到着すること、それがゴールです」
遭難原因で特に目立つのは「体力不足」である。