イラスト/ウノ・カマキリ
イラスト/ウノ・カマキリ

 徳川幕府が倒れた後、明治政府は開国に踏み切ったが、なぜか井伊家は新政府から拒まれ、要職に就くことはできなかった。

 尊王攘夷派は自立主義者で、明治以降現在に至るまで、日本ではその自立派と、直弼のような世界の強国との連携(同盟)派との対立が続いている。

 明治、大正、昭和を通じて代表的な言論人であった徳富蘇峰は、直弼を「一個の反動的政治家であった」と決めつけ、司馬遼太郎は「井伊は政治家というには値しない。……病的な保守主義者である」とまで言い捨てている。

 だが、彦根市出身で直弼を高く評価している私は、自立派の危険性、そして連携の重要性を強く感じている。たとえば、日米同盟を持続するために安倍晋三元首相が決断した集団的自衛権の限定的行使容認を多くの新聞社や有識者たちは、憲法違反、対米従属だと厳しく非難した。だが私は、ジャーナリストにあるまじきことだと強い批判を浴びながら、安倍氏の決断を評価した。

 日米同盟が破棄されたら日本は現在の3倍、4倍も防衛力を強化しなければならず、自前の核兵器を持たざるを得なくなるのではないか。その問いに対して、批判する誰からも確たる返事は得られなかったのである。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

週刊朝日  2023年1月27日号

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