落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「沖縄」。
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初めて沖縄へ行ったのは、13年くらい前の宮古島だった。もちろん仕事だ。落語会が時間通りに始まらないくせに、打ち上げは終わらない。主催者のおじさん達にバカみたいに飲まされた。歌い、飲み、踊る。朝起きると頭ガンガン。「ピィーーーッ!」という指笛の音が頭の中ずーっと響いていた。嫌じゃないけどね。
沖縄本島へは柳家小三治師匠と。トリの師匠が高座に現れると客席から指笛が「ピィーーーッ!」。指笛と人間国宝。落語が終わったら至るところからまた「ピィーーーッ!」。ホテルに向かう帰りの車に「ピィーーーッ!」。タクシーから手を振るとまた「ピィーーーッ!」。運転手さん曰く「みんな嬉しいんです」。
それから毎年、独演会の全国ツアーで沖縄へ伺うようになった。何年か前。日曜日の早朝、FM沖縄のスタジオから「サンデーフリッカーズ」の生放送をした。「リスナー、集まれ!」と声をかけたら来てくれた、3人。それぞれ差し入れをくれた。サータアンダギー。サータアンダギー。ちんすこう。口が乾く。飲み物も欲しいな。「ありがとう!!」「ピィーーーッ!」。お。ここでもか。
弟弟子の一刀くんの母上は沖縄出身。終演後、ご親戚が楽屋に挨拶に来てくれた。「いつもお世話になってます~」。周りには伯母さん叔母さんが数名。ワーワーと賑やかだ。何喋ってんだかわからなかったがゴキゲン。お婆ちゃんは車椅子から「よかったら」とパインケーキをくれた。孫の落語を聴いた感想は一言「面白い」。パインケーキ、一口食べたら婆ちゃん以上に甘かった。