とはいえ、インベの考え方はフェミニズムに影響を受けつつ、正義に向かって突っ走るとか、最近ネット上でよくある、正義を吠えたてるようなこともなく、適当なところでストップして話を転換するような感じである。死後の世界とか前世とかオカルト的なことも書いてあるのでちょっと心配になるが、これも擬態なんだろうか。
女性の写真を撮る時に、インベはさながらインタビューのように相手と話をする。そこから導かれた議論もあるが、男性とも話さないといけないのではないか。インベはそれに対して、男は新幹線殺傷犯を取材したと言うが、殺人犯で男を代表させるのも困るので、今後は男の話も聞いてほしい。そういえばインベは西村賢太のファンだったが、存命中にそれを言えば西村に追いかけられかねないので黙っていたと、これは私が聞いた話だが、その判断が的確なのはいいとして、そういう要素もあって男性とはあまり話ができないのかもしれない。
エッセイの中では、被写体となった女性の話や、インベ自身が身の回りのものを売った話、これまでキャリアの上で苦労した話、東京の女子高に通っていた話なども出てくる。ちょっと不思議な立ち位置の人で、動画などで見る限りごく常識的で落ち着いた人に見えるが、中にはモンスターが住んでいると自分では言っている。
本書を読むと、チラリチラリとインベ自身の生い立ちが出てくる。都内の私立女子高では半分は埼玉県から来ていたとかあり、どこなんだろうと興味をかきたてられるし、両親はどんな人なんだろうと思うがそれも分からない。インベという日本最古の姓の一つを名乗っていることとあいまって、インベさんへの関心ばかりがふくれあがる、不思議な本である。
※週刊朝日 2022年7月1日号