獣医師の青山千佳さん(左)と齊藤朋子さん(右) 撮影=笹井恵里子
獣医師の青山千佳さん(左)と齊藤朋子さん(右) 撮影=笹井恵里子

不妊去勢手術であれば、目の前の命を殺さずに済む

 この日、ボランティアで手術の手伝いをしていた鈴木経子さんは、8年前からこういった活動に参加しているという。

 「街に『野良がいないようにする』という結論は一緒なんですよ」と説明する。

「殺処分は“目の前の猫を殺すこと”でしょう。一方で不妊去勢手術をすれば“その猫限りの命”となりますから、時間はかかりますが、いつか野良猫はいなくなります。それなら殺しちゃうより手術をうけさせて“入り口”をしめる、次の命が生まれてこないようにしたほうがいいのかなって。猫が好きじゃない人の立場で考えても、税金の使い道として殺処分を行っている行政施設を維持するより、猫が増えないような活動のほうがいいのではないでしょうか。だって猫を殺さないほうが人間的ですよ。私はそう考えるのですが、でも殺処分はなくならないんですよね……」

 鈴木さんは悔しそうに、そうつぶやく。

殺処分の現実を見ても、「殺してもいい」と言えるのか

 たしかに人は、何年も何十年も大量の犬や猫を殺してきた。私を含め、多くの人がなんの疑問ももたずに。

「人はみんな、野良猫なら殺してもいいって思っているのかな、と。それならもうこのままでいいのかなって思う時も正直あります」

 違う。殺処分の現実や、それを防ぐ手段を知らないだけだ。だから多くの人に知ってほしいと私は思い、この記事を書いている。

 もしも、「年間2万匹くらいの犬や猫なら処分してもかまわない」と思う読者がいるなら、ぜひ殺処分の現場を映像で見てほしい。YouTubeなどで検索すれば、誰でも見ることができる。普段、犬や猫と関わりのない世界で生きている私も、3年前に記事執筆のためその映像を見た時、なんて残酷な光景なのかと涙が止まらなかった。人間が自分たちの行いを直視し、「殺処分なんてなくなればいい」と願えば、きっと終わらせることができる。それぞれの立場で少しずつできることがあるからだ。

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