AERA9月6日号から
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 ゲーム制作を本業としない小さな企業がつくるインディーゲームで、3Dグラフィックや臨場感あふれる大迫力のエフェクトを盛り込むことはできない。だが、高久田さんは言う。

「ストーリーに没入して楽しめる、余韻に浸れるゲームをつくりたい。数年後にもなんとなく思い出すような、昔ながらのゲームの良さを追い求めたいです」

 高久田さんは自他ともに認める「歴史マニア」だ。ストーリーを練る際は地域の図書館に通い詰める。「キズナファンタジア」の開発でも1年で10回以上石巻を訪れた。そうして開発される地方創生RPGについて、先出の小野さんはこう評する。

「キャラクターデザインやシナリオ、世界観はとてもよくできていますし、UIや全体的な遊びやすさもどんどん改善されている。『ローカルディア・クロニクル』の38万回というダウンロード数は、オリジナルゲームとしては『快挙』です」

 ただ、課題もある。ゲーム開発はあくまで「手段」で地域活性化につなげることが重要だが、ダウンロード数や位置情報システムの使用回数程度しか効果測定の指標がなく、郷土理解や観光促進にどれだけ役立つかは見えにくい。行田市、淡路島、石巻市では公費が投じられているが、税金でのゲーム開発に異論もあるだろう。石巻市が井桁屋に委託した開発費用は993万3千円。開発背景を聞くと格安にも思えるが、常勤職員を2~3人、1年間雇用できる額だ。

 それでも、小野さんはゲームを活用した地方創生の動きはさらに広がるだろうと見る。

「ゲーム制作のハードルが下がり、比較的安価で優れたゲームが作れるようになってきました。また、地域課題に対してゲームのようなポップカルチャーに予算を付けることも一般的になってきた。RPGに限らずこれからもさまざまなゲームが作られるでしょうし、ゲームが活用される場面も増えていくでしょう」

(編集部・川口穣)

※AERA 2021年9月6日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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