東京パラリンピックは8月25日、水泳が始まり、過去5個のメダルを獲得している鈴木孝幸(34)が男子50メートル平泳ぎ(SB3)に出場する。AERA2019年5月20日号で力強く語ったインタビューを紹介する(肩書きや年齢は当時)。
【写真】驚くべき日本の技術力が! パラ競技用の車いすはこちら(計11枚)
* * *
左腕には指が3本。右腕はひじまで。左脚は膝までで、右脚は付け根から無い。鈴木孝幸は水中でそのアンバランスな体を巧みに駆使し、推進力に変える。
ロンドンまで3度のパラリンピックでメダル5個。メダルを取れなかったら次の東京は目指さないと決めていたリオでは、手が届かなかった。
「でも、レースを分析したら、前半リードしても後半失速するという課題が見つかったので続けることにしました」
主に取り組んだのはメンタルと泳ぎの改善だ。練習拠点の英ロンドンで、心理カウンセラーと探し当てた課題解決法が「心の力みを解く」だった。
「勝つ気持ちをしっかり持ってと思ったが、それが力みになって後半のスタミナ切れにつながっていた。他の選手を気にしすぎていた」
予選のタイムを他選手と比較。自分より相手に余力があるかもと気にしていた。が、そんな他者に矢印を向けたマインドではなく自分の泳ぎに集中するようにした。マインドセットを変えたのだ。
同時に、ストロークのテンポが後半落ちることに着目。英国人コーチと話し合い、平泳ぎの息継ぎの回数を、ストローク2回に1回から4回に1回に減らした。
「息継ぎをすると『かき』が小さくなるので回数を減らしました。最初は苦しかったが、推進力を上げられるならやらない理由はない」
技と心のバランスを整えた日本パラのレジェンドは、変化を恐れず突き進む。
(ライター・島沢優子)
* * *
■水泳
パラリンピックの水泳は競泳のみで、オリンピック同様、自由形、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ、個人メドレー、リレー、メドレーリレー7種目で競う。脊髄損傷など身体の機能に関する障害や、視覚、聴覚、知的などの障害の種類や程度によってクラス分けされる。出場は、世界パラ水泳連盟(WPS)の定める標準記録の突破が最低条件。
※AERA2019年5月20日号に掲載