女性差別発言で辞任するも、後継者指名で墓穴を掘って四面楚歌状態になった東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長。『遺書 東京五輪への覚悟』は森会長が五輪の舞台裏をぶっちゃけた、いわば暴露本である。読んでビックリ。全編これ、関係者への愚痴と罵詈雑言のオンパレードなのだ。
JOCは慶應閥のお友達集団。竹田恆和会長は<床の間に座ってもらうにはふさわしい人かもしれないが、自分の判断、意志でJOCを動かしたことはないのではないか>。組織委は出向者ばかりで<帰ったとき自分の立場がどうなるか、ということばかり考えて仕事をするのです>。歴代都知事への恨みも骨髄。猪瀬直樹知事と招致委が作った立候補ファイルは<大変ずさんなもので、大きな問題でした>。舛添要一知事時代にやっと見直しが始まったと思ったら、またもや退陣。次の小池百合子知事には<「よく勉強してください」と申し上げたけれども、その後も勉強をされておられなかったようで>、何か進言しても<「あら、そーお?」>。
要は「どいつもこいつも」って話である。彼が気を揉んでいるのは主に予算と競技会場についてだが、こんな上司がいたら現場もさぞやウザかろう。
批判の矛先はメディアにも向けられる。新聞、テレビ、週刊誌。<記者の勉強不足、基本知識の欠如は、それはもう書かれた私が驚くほどです>
言わねば死ねないという意味での「遺書」。発行されたのは2017年。<私は今、二つの死の恐怖と闘っているようなものです。一つはガンであり、一つは小池都知事の刃です>。なんちゅう大げさな因縁の付け方か。小池知事は組織委を妨害することで<私がギブアップし、会長を辞めることを期待しているのでしょう。むろん、私はそんなことでは辞めません>。
なのに自ら招いたこの結果。「余人をもって代え難い」の内実がこれならば、お辞めになってよかったんじゃない?
※週刊朝日 2021年3月12日号