2020年に世界を震撼させた新型コロナウイルス感染症は、医療分野だけでなく教育や情報テクノロジーなどさまざまな分野で問題を浮き彫りにした。21年にはどのような発展が見込まれ、我々はどのように対応していくべきなのだろうか。人文・心理分野の研究者に聞いた。(東大新聞オンラインより転載)
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■科学と社会の架け橋に
堀江宗正教授(東京大学大学院人文社会系研究科)
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて宗教団体の対応は割れました。一般的に高齢化が進んでいるため、集会の制限は受け入れられやすく、オンライン化も進んでいます。それに対して、一部の教団ではポジティブな精神状態なら発症しないと考えられています。社会全体で求められている感染症対策に従わず、集会の制限を信教の自由の侵害だと見なす傾向があります。
日本では宗教への関心が低いせいか、いわゆる「夜の街」や医療従事者などが感染リスクの高い集団として注目されがちです。しかし、韓国では流行初期から特定教団が感染源としてマークされてきました。米国ではキリスト教右派が、マスクなしで集会やデモを行うため、高リスク群と見なされる傾向があります。
それに対する反動として台頭してきたのが陰謀論です。仮想敵に脅かされているという被害者意識故に、世界が善悪に分かれて戦っているという見方をするのでしょう。目立つのは「トランプvs中国共産党」という図式です。新型コロナウイルス感染症は意図的に流出されたものだ、ワクチン開発企業による偽情報だ、などの内容のものです。米国大統領選における反共・トランプ支持の動きは日本でも見られ、トランプ大統領は、宗教を弾圧する中国共産党から世界を救う救世主と見なされています。
新型コロナウイルス感染症は弱者を狙い撃ちする傾向があり、さまざまな分断をもたらしています。致死率が高いのは高齢者や基礎疾患のある人です。諸外国では、都市で密集して生活する貧困層ほど死者を出しています。日本でも特定の業種で失業者が発生していますし、高い感染リスクに晒されながら働くエッセンシャルワーカーには強いストレスがかかっています。