――佐藤さん、ちょっと病んでません?
「『生きているもの、死んでいるもの』って、言いますけど、撮影者も含めて人はそれを他人ごとみたいに眺めていると思うんです。だから、死を味わいたいな、というか。そういう感覚がちょっとあった」
肉が食いつくされ羽根と骨だけとなったサイチョウの死骸にとまるチョウ。足が絡まり干からびて木の枝にぶら下がるモリアオガエル。生と死そのものの冬虫夏草。
死の世界の結びには、またあの酋長が現れ、カオスな世界へと帰っていく。
「いい写真」「すごい写真」を目指すあまりに見失っていたもの
佐藤さんは、これまで見失っていたものがたくさんあった、と振り返る。
「写真を撮り始めたころは、『いい写真』『すごい写真』を撮ることがいちばん大切だったんです。だから、びしっとしたピントやライティングにこだわって、一瞬の表情や光を完璧にとらえることで生命のすばらしさや奥深さをしっかりととらえたかった」
しかし、それを突き詰め、表面的な部分を重視しすぎるあまりに、生命に出合うまでの視点の移動や、心のブレがこぼれ落ちていることをずっと感じていた。
「このまま、『いい写真』を目指していても、すごく生命のオーラをまとった、自分のほんとうに感じているもの、写したいものがとらえられていない、という思いがとてもあって……。『生命の森 明治神宮』(講談社、2015年)を撮ったころから写真を写すのがすごくつらくなりました。撮る枚数も減った。そのなかで、いろいろなことを試みていくうちに自然のとらえ方が変わってきたんです」
そういう意味では、今回の作品展は佐藤さんの新たなスタートとなった。
当初、写真展は昨春に開催する予定だった。しかし、新型コロナの影響で大幅に延期となった。
「ほかの写真関係のイベントもなくなりました。でも、時間ができたし、そのぶん日本を楽しんだ。ぼくはむしろコロナで自由になったような気がします。その間、写真を撮ってもいたんですけれど、それよりも自然と遊んだ。それが写真にもいい刺激になったと感じています」
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】佐藤岳彦「裸足の蛇」
オリンパスギャラリー東京 1月7日~1月18日