写真家・佐藤岳彦さんの作品展「裸足の蛇」が1月7日から東京・新宿のオリンパスギャラリー東京で開催される。佐藤さんに聞いた。
東京・銀座のプロラボで展示プリントのチェックを終えて現れた佐藤さんの表情は、つきものが落ちたようにすっきりとしていた。ひと仕事終えて力が抜けた、というより自然体――いい感じだ。
近くの喫茶店に場所を移し、ノートパソコンを開き、写真展会場の展示レイアウトを見せてもらう。その瞬間、(こりゃ、佐藤さん、本格的に始動したな)、という思いを抱いた。というのも以前、佐藤さんがこう語っていたのを思い出したからだ。
「ぼくが特に影響を受けた写真家は、森山大道さんと藤原新也さん。自然って、あらゆるものがぐちゃぐちゃにある、カオスなんですよ。常に光が動いて、ぱ、ぱっと光景の断片が現れて。もっとそれを、そのまま切り取っていいんだな、と」
目の前に映し出されたのは大小さまざまな写真が散りばめられた展示会場の壁面。(あのとき語っていたカオスだ)。そう、直感した。
点と点がつながって、線となり、作品を生み出している感覚
プロローグは、打ち寄せる暗く青い波。渓流のせせらぎに浸された佐藤さんの素足。洞窟の闇に照らし出された白ヘビ。凍てつくタイガの曲がりくねった川。黒い土に真っ白い菌糸を広げる変形菌。ジャングルの水たまりに映し出されたに林間、そしてぼやけた佐藤さんの顔。
タイトル「裸足の蛇」が佐藤さん自身であることが、すーっと頭に入ってくる。作家の内面世界。蛇のように地を這う視線。被写体の大きさや撮影距離はまるで違うのに、不思議と違和感がない。
「ぼくが見ている生命世界、旅で出合った世界。そこで感じたこと、経験したこと。それらがぼくの中にぬるっと入ってくる感覚。その点と点がつながって、線となり、作品を生み出している感覚。それを写真展で表現したいな、と思ったんです。だから今回は、一点一点の作品を見せる、というより、まずは会場全体を見せたい」
大小さまざまな写真が組み合わさり、佐藤さんの思考がうねりとなって連なっていく。
そこへ闇の中から謎の男が闖入する。いや、違う。闖入者は佐藤さんだ。逆にこの男は佐藤さんを生命の世界へと招き入れているのだ。いわばナビゲーター。腰蓑だけを身につけ、じっとりとにじみ出た汗がテカテカと光る筋肉質の体。しかし、ブレているので、それ以上のことはよくわからない。
「ぼくがパプアニューギニアでお世話になった村の酋長なんです。この人の印象が強すぎて――毎日、太鼓を鳴らして、踊らないと寝かせてくれない(笑)。最初の波打ちぎわの写真は鎌倉の海で撮った夜光虫なんですけれど、それと闇に浮かぶ酋長の姿がぼくの中では重なってくる。同じ生命体として迫ってくる」