1958年5月の猿江線延伸時に新設された錦糸町駅前のターミナル風景。28系統は右側の安全地帯、36系統は左側の安全地帯からそれぞれ発着した。朝のラッシュ時には、乗切れなかった乗客が車道に溢れる賑わいを見せていた。(撮影/花上嘉成:1968年9月23日)
1958年5月の猿江線延伸時に新設された錦糸町駅前のターミナル風景。28系統は右側の安全地帯、36系統は左側の安全地帯からそれぞれ発着した。朝のラッシュ時には、乗切れなかった乗客が車道に溢れる賑わいを見せていた。(撮影/花上嘉成:1968年9月23日)

 次のカットは先輩の花上嘉成氏から借用した作品。

 錦糸町駅前交差点の歩道橋から撮影した、錦糸町駅前停留所で発車を待つ28系統東京駅丸の内北口行きと36系統築地行きの都電。この日は残暑がきつかったのか、都電の前面窓は開放され、背景の高架線を走る国鉄総武線上り電車の窓もいっぱいに開かれていた。高架橋の奥に少しだけ顔を覗かしているのが、石原線の錦糸町駅前停留所の安全地帯で、ここからは16系統大塚駅前行きの都電が発着していた。

■停留所間隔が一番長かった区間

 隣接する停留所との距離が一番長かった区間が、溜池線(虎ノ門~四谷見附)の赤坂見附~若葉町で、その距離は1054mだった。この連載で「都電名物のトンネルがあった喰違見附を走る都電」として2019年3月30日に既報している地点だ。開通当初は赤坂見附と学習院前(四谷仲町→四谷一丁目を経て戦後若葉一丁目に改称)の間に紀伊国坂停留所(後年紀ノ国坂下に改称)があった。1944年に紀ノ国坂下停留所が廃止されて、隣接停留所との距離が1000mを超す最長区間になった。

隣接停留所との距離が一番長かった溜池線の若葉一丁目~赤坂見附を走る3系統品川駅前行きの都電。この区間の名物だった喰違見附トンネルの専用軌道は首都高速道路工事の進捗で、1963年7月から単線の迂回運転に切替えられた。(撮影/諸河久:1963年7月21日)
隣接停留所との距離が一番長かった溜池線の若葉一丁目~赤坂見附を走る3系統品川駅前行きの都電。この区間の名物だった喰違見附トンネルの専用軌道は首都高速道路工事の進捗で、1963年7月から単線の迂回運転に切替えられた。(撮影/諸河久:1963年7月21日)

 写真は、首都高速道路4号新宿線建設工事の進捗により、紀伊国坂の旧歩道上に移設された単線軌道区間を走る3系統品川駅前行きの都電だ。画面中央の背景に東京タワー、その左側に旧線跡と煉瓦巻きのトンネルポータルが遠望できる。余談であるが、赤坂見附に下る「紀伊国坂」は、画面右側に紀州徳川家の中屋敷があったので坂の名称となった。紀州家中屋敷は明治期に宮内省の用地となり、現在は1909年に片山東の設計で竣工した「迎賓館赤坂離宮」の美しい洋風宮殿が所在する。

■停留所間隔が一番短かった区間

 前出の猿江町線錦糸町駅前~錦糸堀86mが最短の停留所区間かと思ったが、上には上があるもので、80mの停留所区間が所在した。それが御茶ノ水線の万世橋~秋葉原駅西口だった。御茶ノ水線を走る13系統(新宿駅前~水天宮前)は、1958年の水天宮前運転延伸まで万世橋が終点だった。万世橋交差点西側の停留所で終着の降車扱いをすると、回送で万世橋交差点を渡り、交差点東側にある折り返し線まで移動した。ここで転向して、再び新宿駅前方面に戻っていた。

万世橋折り返し線東端に設置された秋葉原駅西口停留所で降車扱い中の13系統の都電。画面左奥の万世橋警察署付近に所在する万世橋停留所との距離は最短の80mしかなかった。(撮影/諸河久:1965年11月17日)
万世橋折り返し線東端に設置された秋葉原駅西口停留所で降車扱い中の13系統の都電。画面左奥の万世橋警察署付近に所在する万世橋停留所との距離は最短の80mしかなかった。(撮影/諸河久:1965年11月17日)

 上の写真は電気街として知られる秋葉原駅西口に到着し、降車扱い中の13系統秋葉原駅西口行きの都電。1958年の秋葉原駅東口延伸までは、13系統の新宿駅前方面の折り返し線として機能していた。

 画面後方の二階建て石造りの建物が警視庁万世橋警察署で、その背後には駿河台のニコライ堂円形ドームが顔を覗かせている。高層建築が林立する前の一コマだ。

■撮影:1967年9月12日

◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。著書に「都電の消えた街」(大正出版)、「モノクロームの私鉄原風景」(交通新聞社)など。2019年11月に「モノクロームの軽便鉄道」をイカロス出版から上梓した。

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