「ストーリー面でも、主人公以外の登場人物や、倒した鬼たちのバックグラウンドまで描写することで、多面的な魅力を生んでいます。そうした点が、大人や女性にもグッときたところではないでしょうか」

 アニメの人気は原作本の売り上げにも好影響となった。アニメが放送されたのは昨年の4~9月だが、それ以降、原作コミックスが爆発的に売り上げを伸ばしている。この作品だけで昨年における紙のコミックスの発行部数を5年ぶりにプラスに押し上げたほどだ。

「最終巻コミックスが発売されたら1億部に手が届くのではないかともいわれています。出版不況が叫ばれる今、これだけのメガヒットは異例です。漫画で言えば『ワンピース』は4億7000万部とケタが全然違いますが、あれは十数年も続けてきた上での数字です。アニメが放送されて1年弱でこの浸透スピードと伸びしろを見せた作品は、他に見たことがありません」

 アニメ放送前には予想もしなかった「鬼滅の刃」の躍進には、小新井氏も驚きを隠せない。

●予想外の大ヒット ネット環境浸透が追い風に

 漫画のアニメ化は以前から行われてきたが、いったい今回は何が違っていたのか。

「アニメ化がきっかけで人気がさらに出たのは『進撃の巨人』や、先ほど挙げた『ワンピース』も同じです。ただ、これらの作品はアニメ化が決定した時点で『ついにアニメ化』『待ってました!』と言われるほど、原作に一定のファンが付いた人気コンテンツでした。ところが、『鬼滅の刃』の場合はアニメをきっかけにして、作品自体をまったく知らない人がハマりだしたというケースが多いという印象です」

 ある程度ファン層がいるアニメに関しては経済効果が予想しやすく、映画化やグッズ化など次の手も考えやすい。対して「鬼滅の刃」は、ジャンプで連載していた時点で、そこまで人気がある作品とはいえず、放送も深夜時間帯だった。そのため、これだけのヒットは誰も予想していなかった。

人気アニメ市場を活用するビジネス手法「ここ5年くらいの間にNetflixなどのオンライン動画配信サービスの環境が整ってきたことも、『鬼滅の刃』の周知に貢献したと思います。深夜アニメというのはリアルタイムの放送を見ていなければ、ファン以外にはほとんど情報が入ってきません。それが、『この作品が面白いよ』と聞いた人が、放送が終わってから後追いで視聴できるのは大きいですよね」

 従来のアニメは、「ワンピース」「NARUTO」のように夕方にテレビを付けて、子どもが見ているものを親や大人が見て認知するというパターンが多かった。

「動画配信サービスが普及して、『おそ松さん』『けものフレンズ』といったいわゆる“バズる作品”が、話題を聞いて後追いで視聴できるという環境が徐々に整ってきたのかなという印象があります」

 無料配信アプリなどで後から視聴する人の数が増えたことで各番組もネット配信に力を入れるようになっており、コロナ禍での「ステイホーム」も相まって、まさにあらゆる世代が「鬼滅の刃」を認知する形となったようだ。

●人気アニメ市場を活用するビジネス手法

 そしてコンテンツの訴求力が強まる中、企業がさまざまな場面でコラボ企画をしかけている。

「グッズ関係なら『primaniacs』からキャラクターの香りをイメージした香水、ユニクロ『UT』とのコラボTシャツが発売されました。また、くら寿司、ばくだん焼本舗、お好み焼き道とん堀、スイーツパラダイスなどの飲食店系、医療品メーカーの白十字、小売りではローソン、ドン・キホーテ、アミューズメント施設のセガなどともキャンペーンを展開しました」

 小新井氏が例を挙げるだけでもそうそうたる大企業が「鬼滅の刃」人気にあやかり、ほぼ同時期に自社の販促目的で「鬼滅の刃」とタイアップ企画を打ち出している。

「企業コラボで使われている絵柄はいわゆる『アニメ絵』と呼ばれているもので、原作のイラストではなくアニメのイラストが使われていることの方が多いようです」

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地域の活性化にもアニメは貢献している