国内外の人々を惹きつけてやまない京都。その四季折々の魅力を、京都在住の人気イラストレーター・ナカムラユキさんに、古都のエスプリをまとったプティ・タ・プティのテキスタイルを織り交ぜながら1年を通してナビゲートいただきます。愛らしくも奥深い京こものやおやつをおともに、その時期ならではの美景を愛でる。そんなとっておきの京都暮らし気分をお楽しみください。
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■大正レトロモダンな空間へタイムトリップ
いよいよ待ちに待った春本番。寒さもぐんと和らぎ、にぎやかな鳥のさえずりで目を覚まし、朝のスタートが快適になってきました。早咲きの桜が開花し始め、京都の街はこれから一ヶ月かけて、南から北へと徐々に桜色へ華やぐ季節です。お花見の全盛期まであと少し……つぼみを眺めながら、うきうきとお散歩が楽しくなる時期。バッグにそっと忍ばせて出掛けたくなる、愛着のわく小物をご紹介します。さらに、自分なりのテーマを決めて歩くこともおすすめ。和のイメージが濃い京都にも、洋風のレトロ建築様式をあちこちで見つけることが出来ます。今回は、旧花街「島原」を訪れ、大正モダンが色濃く遺る空間に浸るタイムスリップの旅へとご案内します。
■花街に遺るレトロモダンな空間
丹波口にほど近い京の旧花街「島原」。格式高い島原大門をくぐると、石畳の道が続いています。かつては、活気に溢れ、色鮮やかな着物を纏った太夫が練り歩いた道でもあります。その一角に、風情ある和風建築の「きんせ旅館」があります。江戸時代後期に揚屋(あげや)として使われていた建物を、大正時代後期に現店主の曾祖母が買い取り、旅館として開業。その際、1階部分を当時流行していた大正モダンの雰囲気に改築したそうです。祖母の代で一度閉店して20年近く使われていなかったこの建物を、現店主が2年かけて蘇らせ、2009年にカフェ&バーとして再開。2階は1日1組だけ宿泊出来るようにしました。ダンスホールとして使われていた広間は、格式高い造りの折上げ格天井、落ち着いたオレンジ色の光の中に薔薇やシャクナゲ、蝶が舞う鮮やかなステンドグラスが妖艶に揺らめき、思わずタイムトリップしてしまったような感覚に。また、諸処に施された遊び心溢れる泰山タイルは、ずっと指でなぞり眺めていたくなるほどです。レモンの香りが豊かな自家製レモネードと定番のレモンケーキを味わいながら、この空間にゆっくりと身を委ねて過ごしたくなります。