「夢千代日記」などで知られる脚本家の、90年代から10年代にかけて各種媒体に掲載されたエッセイを、没後2年を経てまとめたもの。
50代で心筋梗塞と胆嚢がんを併発した際、「なおかつ平気で生きる」という正岡子規の言葉や、生まれるときも死んだあとも「くらい」のだとする空海最期の言葉に救われたという著者は、そこで得た悟りを体現するように、88歳という長寿をまっとうする。
家の前をお遍路が歩いていく姿を日常的に目にしながら松山の地に育った著者が、独特のたくましい死生観を紡いでいくさまを静かに浮き上がらせていく珠玉の短文集だ。
原爆で最愛の妹を失った体験、40年以上に及ぶ交友のあった渥美清の思い出なども含め、昭和と平成という二つの時代をじっくりと振り返ることができる。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2019年12月6日号