つじ田の「濃厚つけ麺」は一杯880円。すだちを搾ったりなど、新たなつけ麺の食べ方を提唱し続けた(筆者撮影)
つじ田の「濃厚つけ麺」は一杯880円。すだちを搾ったりなど、新たなつけ麺の食べ方を提唱し続けた(筆者撮影)

 一年ほどして、ようやくつけ麺の認知度も上がり、ラーメンの売り上げを上回るようになった。豚骨と鶏ガラの濃厚なスープに極太麺を合わせて黒七味をかけたり、すだちを搾ったりなど、新たなつけ麺の食べ方を提唱し続けた。つじ田がオープンした後、「とみ田」「六厘舎」「TETSU」などの人気店も続々オープンし、第二次つけ麺ブームが訪れた。

「つじ田」の味はとにかく飽きない。ダシにこだわっていて、スープには余計なものは混ぜず、豚骨と鶏ガラでじっくりと仕上げる。魚粉を入れればインパクトが更に出ることはわかっているが、それはしない。あくまで自然に仕上げるのが「つじ田」流だ。麺は数多くの名店の自家製麺を手がける三河屋製麺のものを使っている。一切の妥協をせず、50回以上オーダーし直した。製麺所の担当者から「もう勘弁してください」と言われながらもこだわり続け、ベストな麺を探り続けた。

 一過性かと思われたつけ麺ブームは文化となり、「つじ田」はつけ麺の名店として今だ君臨し続けている。

つじ田 日本橋八重洲店/東京都中央区八重洲1-4-6/平日11:00~23:00、土日祝11:00~21:00/不定休/筆者撮影
つじ田 日本橋八重洲店/東京都中央区八重洲1-4-6/平日11:00~23:00、土日祝11:00~21:00/不定休/筆者撮影

「田中商店」の田中さんも「つじ田」を高く評価している。

「他のお店にはない旨さですよね。自然の材料であの旨味を出すのは本当にすごいです。今までのつけ麺の常識だった『甘み』や『酢』は使わず、新たなつけ麺を仕上げた功績は大きい。辻田さんはとにかく負けず嫌いで努力家です。彼が20歳ぐらいの頃に知人を通じて初めて会いましたが、その時から成功するオーラが出ていました」(田中さん)

 前述の通り、辻田さんはもともと「田中商店」の大ファンだった。2人で飲みに行くたび、田中さんからさまざまなことを教わった。辻田さんは言う。

「初めて田中さんのラーメンを食べた時の感動が忘れられないです。田中さんはいろんなラーメンを食べて、研究しています。食べている量と、一つひとつのラーメンへの敬意の払い方のレベルが他の人とは違う。ラーメンの設計の仕方、お客さんとの向き合い方など、いろいろと教えていただきました。『つじ田』が奇をてらわないのは田中さんの影響です」

 当初の信念からブレずに、自分の一杯を磨き続けている二人。先輩の背中を見ながら大きく成長する「つじ田」の存在は、田中さんにとっても大きいはずだ。今後の更なる飛躍にも期待したい。(ラーメンライター 井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。

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