●被害者意識が募って、家族を脅す人もいる

 そういう「他責癖」のある人が、周囲の人間を「放っておいたら何するかわからないよ」と脅すというのを、身をもって体験した立場から言わせていただくと、今回の元農水事務次官による事件には、かなり思うところがある。

 被害者の44歳の息子は刺される前、隣接する小学校の運動会の「騒音」を巡って、容疑者である父と口論になって、こんなことを口走ったという。

「うるせえな、子どもをぶっ殺すぞ」

 男性はSNSでいろいろな人と交流を持っていて、殺害される直前もメッセージを投稿するなど、情報的には社会とつながりを持っていた。この発言が事実なら当然、川崎の事件を意識してのことであることは間違いない。

 一方で、この男性はSNSで母親を執拗にディスって、「勝手に親の都合で産んだんだから死ぬ最期の1秒まで子供に責任を持てと言いたいんだ私は」と主張するなど、かなり「他責癖」のある人だった。裏を返せば、強く自分のことを「被害者」だと思っていたのだ。

 自分のような引きこもりが、川崎の事件のようなことを起こせば、父と母に対してこれ以上ないダメージを与えることになる。このような「脅し」をすれば、機嫌を直してくれと懇願して、父もひれ伏すはずだ――。そう思ったのではないか。

 もちろん、これはすべて筆者の想像に過ぎない。しかし、引きこもりの人が「暴走」する際に、強烈な「被害者意識」が原動力になることが多いのは、紛れもない事実だ。つまり、引きこもりの人を必要以上に「かわいそうな人扱い」をすることは、本人のためにも、周囲の家族のためにもならない。

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「変える」のではなく、そのままで暮らせる社会づくりが重要