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「ハリーやエマ・コリンが出演してくれたことで、多くの若い世代が観てくれることを期待している。同性愛への偏見はないだろう彼らに、法律で禁じられ、さまざまな抑圧にさらされる社会に生きることが、どんなことかを理解してもらえたら。そして、今も残る偏見や不条理を取り除き、社会を改善・進歩させることが重要だということを感じてほしい」
──50年代のブライトンの町が印象的に描かれています。景観をはじめ、保守的で抑圧的な当時の雰囲気を再現する上で心掛けたことは?
「不思議なことに、ブライトンという町の外観は50年代とあまり変化がなく、当時の印象をいまだに保っていたのが幸いし、ロケ撮影に関していえば、さほど労力はかからなかった。けれども、今あなたが指摘したように、当時の人々の持つ空気感、心情を描くという点では苦労した。あの時代の英国では、同性間の恋愛は違法だった。つまり、同性愛は悪であり、許されざる犯罪とみなされていた。多くの場合、人々は善悪を法律に従って判断しているから、当然そこに偏見も生まれる。映画では、そんな社会で生きる若者を正確に描きたかった。現代の若者の生活とは極端に違っているだろう。服装に始まり建物や、主たる通信手段もデジタル革命前の手紙や電話の世界。環境がそれだけ異なっていれば、心理状態も現代と大きく変わってくるだろう。その境遇に生きるキャラクターの心情、一つひとつの行動の理由や背景など、常にキャストと話し合い、検討しながら撮影を進めた。僕は光栄にも、50年代の世界に行くことに積極的に取り組んでくれた3人の若手キャストに恵まれたと思う。3人とも70年前の世界にさかのぼり、そこに実際に生きることを試みたんだ」
──若い世代も後年の世代を演じる俳優もみな素晴らしいですね。配役は大変でしたか?
「配役を決める際、普通は監督が俳優を説得して引き受けてもらうものだ。ところが今回は興味深いことに、6人の俳優が、『この映画にぜひ出演したい』と僕に申し入れてくれて、逆に僕が説得される側だったんだ。最初にハリー・スタイルズに会った時、彼はすでに原作と脚本を2度ずつ読んでおり、どうしてあの役を演じたいのか、社会的・政治的な観点からも、どんなメッセージを込めた映画にしたいかも含めて、非常に明確に説明してくれた。この役を演じることが、彼のキャリアを発展させるためにいかに大切であるかなどもだ。エマ・コリンは、マリオンという女性が置かれた立場をいかに理解できるかを力説してくれた。どの俳優も、役柄への関心を熱く説いてくれたんだ。だからキャスティングは幸運にも全く問題がなかった。シンプルだった」