ついさきほど、日本の新元号が発表された。長引く経済不況と少子高齢化のトンネルを抜けるため、令和はよりいっそう「お年寄りが活躍」し、「女性が輝く」時代になっていくのであろう。良き哉、良き哉……。

 さて、そんなタイミングでぜひ読みたい小説が、柚木麻子の最新刊『マジカルグランマ』だ。端的に言ってしまうと、痛快な傑作である。これまで柚木作品を読み逃している方々も、手にとっていただきたい。

 物語の中心となるのは、年配者と女性たちだ。全員がある意味、父性社会に抑圧され、行き場を失った人々とも言える。言ってみれば、「活躍」とか「輝く社会」などの名の下に搾取されがちな人々でもある。

 ヒロインの「柏葉正子」は七十五歳。若き日は女優のはしくれだったが、鳴かず飛ばずで、映画監督・浜田壮太郎と二十七歳で結婚し、家庭に入った。しかし浜田は浮気性で、ずっと前から敷地内別居状態にあり、この四年間は口もきいていない。正子は離婚するお金を貯めるため、熟年俳優のアルバイトを始める。白髪染めをやめろという友人の助言に従ったところ、引っ張りだこになり、逆に真っ白に髪を染めると、スマホのCMに大抜擢される。そして、若手人気俳優とのコンビで、「日本のおばあちゃんの顔」とまで言われるようになるのだ。

 真っ白な髪の正子は「ユメかわ」で、理想の祖母像を体現していた。「おっとりとしていて上品で、問題を抱えた若者をそっと包み、見守りながらも、時折ズレた言動で笑いを誘」う老婦人だ。正子は「あんなつまらないばあさんに今さら何ができる」と腐していた夫に、一泡吹かせて気分がいい。

 ところが、そんなおり夫が離れ屋で孤独死し、ふたりが仮面夫婦だったことがバレて、正子は一気に批判の的に。正子はこんな四面楚歌でも、広大な自宅の土地を売れば食べていけると算段するが、夫は二千万の借金を残しており、古い屋敷は解体するだけで一千万円余りかかるという……。

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