AERA 2022年12月19日号より
AERA 2022年12月19日号より

 デリー近郊のグルガオンでデジタルマーケティング会社「STORY TELLING(ストーリー・テリング)」を経営する見上すぐりさん(40)は16年6月、設備メーカーに勤務していた夫の転勤に伴い、帯同ビザを得てインドに渡った。長女は当時生後6カ月。見上さんは、

「最初は孤独でした。英語もそれほどできない、子育てもよくわかっていない。私のラベルは『駐妻(ちゅうつま)』で、銀行口座が持てず、アルバイトもできない。10ルピー(約17円)を使う時すら、夫に連絡しなければならない。出しゃばるといけない空気感がつらかった」

 と振り返る。

 転機は、アパートの隣の部屋に住む一家との出会いだった。

「ナニー(子どもの世話をする人)を雇って子育てをうまく回しながら、インドでは外国人であるロシア人の妻が大黒柱としてバリバリ働いていた。私も正面切って自分という存在を出すところが欲しかった」

■「駐妻」が現地で起業

 駐妻が起業した前例がほぼないため、ガイドはない。渡印後の職歴も空白。大使館の警戒心は強く、ビジネスビザはなかなか発行されなかったという。

 コンサルタントの助言を得て、まずはインド人の友人を代表として会社を設立。19年7月、ようやくビジネスビザを取得し、会社の共同代表に加わって実質的な指揮を執っている。

 現在、日本の大手人材会社やEVメーカーなどからホームページや動画などのコンテンツ制作の依頼を請け負っている。大手の広告会社を使わず、より手軽にインドの情報を発信したいという企業の需要にうまく応えられているという。見上さんはこう話す。

「急成長するインドを体感できるのは、あと3年くらいだと思う。早く来ないとバリューがなくなっちゃうよ」

(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年12月19日号より抜粋

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