子どもを2人抱えて、中国で共働きができるだろうか……。この時も、栗田は正直、難しいと思った。上の子は小学校1年生になるタイミングで、下の子はまだ2歳だが、上海には日本のような学童保育や保育園はないし、親の手も借りられない。
栗田は、上司に不安を打ち明けた。ところが、返ってきた答えは「なんとかなるんじゃない?」だった。誰に聞いても、同じような返事だった。人事担当役員にいたっては「大丈夫でしょう」といった。これは、ソニーの優しさかもしれない。栗田ならできる、と背中を押したのだ。彼女は上海に赴任した。
1年生と2歳児を抱えての上海での生活は、想像通りドタバタだった。1年生は、早い時間に帰宅しても家には誰もいないので、マンション内の習いごとを毎日入れた。家事全般はアウトソーシングし、中国語しか話せないお手伝いさんを雇って、子どもの帰宅時には家にいてもらうようにした。2歳の子は、3歳児にまじってむりやり日系の幼稚園に入れてもらった。
■自身の経験を仕事に
おまけに、栗田の仕事は出張が多かった。
「月に1度くらい泊まりがけの出張が入るんです。その間は、家事はお手伝いさん、子どもは夫に見てもらいました。子どもたちも、その日は誰が自分たちを守ってくれるのかがわかるみたいで、私がいなくても全く問題なく、夫と楽しく過ごしていましたね」
当時の中国は、経済発展を続けていた。モバイル決済や自転車のシェアサービスが一気に拡大していくさまを目の当たりにしつつ、栗田は4年間の上海勤務をなんとか乗り切った。
彼女はいま、グローバルで約4万人と、グループ内最大の人数を抱えるエンタテインメント・テクノロジー&サービスを担うソニーの人事総務部門で副部門長を務める。自らの経験を現在の仕事に存分に役立てている。(文中敬称略)(ジャーナリスト・片山修)
※AERA 2022年12月19日号より抜粋