キャリアの初期から裁量性の高い仕事をしていた栗田にとって、復職後も裁量労働制を継続することは自然であり、育休後も比較的スムーズにキャリアを継続することとなった。
夫婦で大企業に勤める栗田は、家庭と仕事を、いかに両立したのだろうか。それまで、家庭では家事全般は栗田の方が得意であった。しかし、育児については夫婦のスタート地点は同じで、どちらが効率的とか、上手下手はない。そこで、保育園の送迎をはじめ、育児には夫も主体的に関わることを確認した。一方、職場に対しては、周囲に必要以上に気を使わせないようにしていたと語る。
「飲み会はいくようにしていました。これが周囲にはインパクトがあったみたいで(笑)。『飲み会にこられる人なんだ、大丈夫なんだ』と思ってもらえたようです。夫も飲み会はあるので、二人の予定がかぶった時は、どちらの飲み会が大事かプレゼンし合います」
と、笑う。
“事件”が起きたのは、14年に第2子の女の子を出産し、復職する直前だった。夫の上海赴任が決まった。
栗田は、復職前から課長職についており、育児休職後もソニー本社に課長として復職予定だった。5歳と1歳の子どもを抱え、いわゆるワンオペをしながらフルタイムで働くことは難しいと考え、配偶者の海外赴任に伴って最大5年間休職できる「フレキシブルキャリア休職制度」を使う方が、中途半端になるよりいいのではないかと会社に申し出た。
■驚きの上海赴任
ところが、すでに職場は栗田復帰の予定で動いており、「予定通りに復職してほしい」といわれた。何ぶん、すでに1週間前だった。
「では、1年間は働きます、その後は休職を検討させてください」と、栗田は宣言した。1年後に休職して、夫のいる上海にいくつもりだった。
フルタイム勤務のワンオペは想像以上に大変だった。管理職として自由度の高い働き方が救いだった。時に親の手も借りつつ、必死でこなした。
ところが、思いがけない声をかけられる。「上海で働かないか」という誘いだった。
「びっくりしました。そんな選択肢があるとは思っていなかったので。会社が事情をくんでくれ、休むくらいなら夫のいる上海のソニーで働かないか、と。5年赴任していた方のポストが空くというので、『栗田はどうせ上海にいくし……』と、声をかけてくださったんですね」