「アサヒカメラ」2018年11月号から(写真/須田一政)
「アサヒカメラ」2018年11月号から(写真/須田一政)

 また一人、写真界の巨星が墜ちた。

【アサヒカメラに掲載された須田さんの写真の続きはこちら(全7枚)】

 土門拳賞など数々の受賞歴がある写真家・須田一政さんが3月7日、亡くなった。享年78。家族によると、葬儀は行わず、後日お別れの会を開く予定だという。11年もの間、人工透析を続けていた須田さんだが、制作意欲は衰えることはなく、足腰が弱って歩けなくなっても、妻・よし子さんと二人三脚で車の助手席から一生懸命にスナップ写真を撮っていた。アサヒカメラ2018年11月号でも元気な姿を見せていた須田さん。ここではその号に掲載された記事を紹介する。

*  *  *

 須田一政さんは、いわゆる「家族写真」を撮ったことがないという。

 ふつう、写真撮影に興味がない人でも、家族ができると写真を撮り始めることが多い。特に子どもが生まれるとそうだ。しかし、須田家ではまったく違ったらしい。

「そういうのに当てはまるのは私だけ。この人はずっと、昔と同じような感じで。ほかのお父さんがするような、『こっち向いて~』みたいな、そういう写真の撮り方はまったくなかったですね」と、妻のよし子さんは言い切る。

「アサヒカメラ」2018年11月号から(写真/須田一政)
「アサヒカメラ」2018年11月号から(写真/須田一政)

――須田さん自身は、奥さんや娘さん、家族を撮っているという感じじゃなくて、スナップ写真の作品を撮っている?

一政:それはもう、まったく変わらないですよ。

よし子:被写体であろうと、私たちであろうと、何でもいっしょなんでしょう。

一政:そうそう。(笑)

よし子:外に行って対象物を撮るときと、私たちを撮るときと、何か違いがある?

一政:ないね。

よし子:もう、断言するもんね。(笑)

「アサヒカメラ」2018年11月号から(写真/須田一政)
「アサヒカメラ」2018年11月号から(写真/須田一政)

 つまり、一政さんにとっては、スナップの作品と家族写真との境目はいっさいなく、レンズを向けるもの、すべてが作品となるのだ。その姿勢は、たとえ被写体が妻、娘であろうとブレがない。

「非情です。だから、須田の古い友人が、『須田さんって、奥さん、子どもでも犬といっしょに撮るよね』と言って。もう、まさに、と思いました。ほんとうに、家族も風景も犬猫もいっしょだから。こっちとしては、せっかく、写真を撮る人と結婚したのに、奇跡の一枚を撮ってもらうでもなく、どちらかというと、喜劇の一枚ばかりで。まぁ、こういう人だから」

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家族写真を撮っているつもりがない