(c)Mitsuaki Iwago カナダ・ワパスク国立公園にて■ライカR6.2・アポテリート400ミリF2.8・プロビア100F・絞りf8・500分の1秒
(c)Mitsuaki Iwago カナダ・ワパスク国立公園にて■ライカR6.2・アポテリート400ミリF2.8・プロビア100F・絞りf8・500分の1秒
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 動物写真家・岩合光昭さんのアサヒカメラ連載「動物っていいなぁ」。今回は、カナダ・ワパスク国立公園でのホッキョクグマです。

【岩合光昭さんの初監督作品「ねことじいちゃん」で“主役”を演じた猫のベーコンくんはこちら】

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 この地域の身ごもったホッキョクグマは、9月下旬ごろになると海から離れた場所に穴を掘る。その深さは約6~7メートル。降り積もった雪の底近く、ほとんど地面に到達する深さだ。

 外はマイナス40度でも、穴の中はマイナス14度ほど。ここでクリスマスごろにたいてい双子の赤ちゃんを産む。内陸部を選ぶのは、海付近にいるオスたちを避けるため。オスは赤ちゃんを殺してしまう。

 2月下旬まで穴の中で授乳をしながら子どもを育て、春の兆しを感じると地上に上がってくる。このとき母グマはあばら骨が見えるほどやせ細っている。なにせ9月から、半冬眠状態とはいえ、飲まず食わずで穴を掘り、出産し、授乳し続けていたのだから。

 おなかをすかせた母グマは子たちを連れ、獲物のアザラシを探して海を目指す。この写真は、そんな道すがら立ち止まって授乳をしている母子の姿だ。

 ホッキョクグマはなんでも食べる。おなかがすいているので、油断をすると人間も危ない。雪上車を降り、スノーモービルで夢中になって撮影していると、ガイドが僕の首根っこを引っ張って車に戻した。知らぬ間に母グマが目の前にいた。バッテリーの入ったナップザックを持って行かれた。

 ちなみに、ホッキョクグマは100メートルを7秒で走る。美しく人気者のホッキョクグマだが、これ以上危険な動物もいない。(文/岩合光昭)

※「アサヒカメラ」2月号から

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岩合光昭

岩合光昭

岩合光昭(いわごう・みつあき)/1950年生まれ。動物写真家。1980年雑誌「アサヒグラフ」での連載「海からの手紙」で第5回木村伊兵衛写真賞を受賞。1982~84年アフリカ・タンザニアのセレンゲティ国立公園に滞在。このとき撮影した写真集『おきて』が全世界でベストセラーに。1986年ライオンの親子の写真が、米「ナショナルジオグラフィック」誌の表紙に。94年、スノーモンキーの写真で、日本人として唯一、2度目の表紙を飾る。2012年NHK BSプレミアムで「岩合光昭の世界ネコ歩き」のオンエア開始。著書に『日本のねこみち』『世界のねこみち』『岩合光昭写真集 猫にまた旅』『ふるさとのねこ』『ネコを撮る』『ネコへの恋文』など多数。初監督作品となる映画「ねことじいちゃん」のBlu-rayとDVDが発売中。

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