「あなたの子ども、私が産んであげる」。子どもに恵まれず、DV夫からの暴力に耐えかねた紀子の心を救ったのは、親友の詩織の一言だった。彼女は、裕福な家庭に育ち、学生時代から成績優秀な美人。一方、貧しい母子家庭に育ち、何をしても冴えない紀子。正反対の2人は14歳のある夜「親友の誓い」を立てたのだった。

 その「誓い」を忠実に守るかの如く、親友の子を秘密裏に産むという計画は着々と進み、狂気を増していく。2人がそれぞれの理想郷を描き始めた頃、一つの命が産み落とされた。

 著者の、女性ならではの視点で描いた、紀子と詩織の感情の起伏が生々しい。母として、女として、個として、どう在りたいか、という問いが随所に出てくる。「どう生きたいか」が、読み手の心に強烈に残る小説だ。
(二宮 郁)