給食といえば脱脂粉乳とコッペパン、の時代に私は育った。それでも学年が上がるにつれて内容は改善されていった覚えがある。脱脂粉乳と牛乳を混ぜた「混合乳」の時期を経て、6年生になった頃に牛乳になっていたな、とか。

 というわけで藤原辰史『給食の歴史』。いま話題の本である。給食の歴史というと、想起するのは戦後の食糧難を救ったアメリカの「ララ物資」だったりするが、この分野にはまだまだ隠れた歴史があった。近代給食の発祥を1889年、山形県鶴岡町(現鶴岡市)の私立忠愛小学校(貧困児童のための仏教系の小学校)における米飯昼食に求めるなら、日本の給食は130年の歴史を持つ。東京府管内の小学校でパン給食がスタートしたのは1919年だ。

 興味深いのは<給食はその誕生からずっと貧困対策であり、防貧対策であった>という事実だろう。それはまた、災害とも深いつながりを持っていた。貧困はもちろん、関東大震災や東北の凶作など、災害のたびに出る「欠食児童」を救うのが、給食のそもそもの目的だったのである。と同時に注目に値するのは<子どもにスティグマを与えない工夫は、給食史の普遍的現象である>という点だ。弁当は貧富の差を映し出す。すべての子どもに同じ給食を供すれば、そんな杞憂は吹き飛ぶ。日本の教育は平等も重んじていたのだ!

 とはいえ、給食はすぐれて政治的な案件でもあった。敗戦後、推進された食糧メーデーやデモにビビったGHQの「治安維持の道具」でもあったこと。給食を無償にしなかったのは、共産主義革命を防ぐ目的があったこと。脱脂粉乳やパンもアメリカの農政や貿易政策と切り離せないこと。

 子どもの貧困は、今日、喫緊の課題である。<現在でも、学校給食が唯一の良質な食事である家庭は少なくない>という現実。韓国では小学校の95%以上、中学校の80%近くが無償の給食を実現しているという。給食費未納の生徒に給食を提供しないとしたある市の決定も著者は厳しく批判する。給食を見る目が変わる本である。

週刊朝日  2019年2月22日号