背表紙の中央に猫が背を向けて座っている。ハードカバーの紙版画絵本で、主人公は推定1歳の元野良猫だ。
冬の朝、集合ポストの下で風雨をしのいでいると目があった。これが作者と目ヤニだらけの衰弱した子猫との出会い。ペット不可のため引っ越すことになるのだが、カワイイかというとそうでもない。だみ声で鳴き、手を差し出すと、ガブッ。甘噛みを教わる時間もなかったのだろう。いっこうに気を許そうとしない日々の一瞬一瞬をとらえたモノトーンの版画が憎らしく、愛らしい。惹かれるのは目だ。すべてお見通しだよという目をしている。
私家本にカラーの版画1葉とエッセイを付す。無駄を削ぎ落とした文章に導かれ、猫を育てて看取るまでの物語を何度も読み返してしまう。谷口ジローの『犬を飼う』に匹敵する名作だ。
※週刊朝日 2018年2月9日号