デビュー作がいきなり直木賞にノミネートされ、話題騒然の一冊。藤崎彩織『ふたご』は、人気バンドSEKAI NO OWARIのメンバーによる初の長編小説だ。

 物語は語り手の「私」こと西山夏子の、彼女が〈人生の大半を彼のそばで過ごしてきた〉と語る1歳上の月島悠介との14歳から20代のはじめまでを描く。

 5歳からピアノをはじめ、音楽系の高校から大学に進んだ夏子に比べ、月島は頑張るのが嫌い。高校を中退して一度はアメリカに留学したものの、夏子に電話してきては「帰りたい」といい続け、パニック障害を起こして帰国。あげく夏子の家に現れて暴れた末にカッターナイフを向けてきた。月島に下された診断はADHD(注意欠陥多動性障害)。とうとう彼は精神科に保護入院となるが……。

 恋人でも友だちでも家族でもなく、しかしそのどれでもあるような二人の関係を、月島は「ふたごのようだ」というのだが、夏子はいいきる。〈私たちがふたごのようであったら、絶対に、一緒にいることは出来なかった〉。青春小説以上、恋愛小説未満の、ちょっと切ないストーリー。

 かと思ったら、第二部で小説は別のトーンに変わるのだ。20歳になり、突然バンドをやるといいだした月島。戸惑いながらも結局はバンドに参加する夏子。

 かつてタルそうに〈俺からすれば、みんなが一体何が面白くて人生を生きているのか全く見当がつかない〉とかいっていた月島は、バンドにのめり込むうち、決意を込めていい放つのだ。〈俺たちは上にいかなくちゃいけないんだよ〉。そして夏子も〈月島が言うのを聞いて、とにかく上にいかなくちゃいけない、と思った〉。

 こうなると、普通のバンド誕生物語だよね。デビュー作で自身の体験をベースにするのはよくある手だが、又吉直樹『火花』と同じで、これを芸能人がやると、なべて「芸術家の苦悩小説」になっちゃうのよね。しかも「上にいく」がメジャーデビューを指すのだとしたら、俗物すぎない? 前半との齟齬が大きすぎるよ、月島!

週刊朝日  2018年1月19日号