藤井聡太ブームが続いている。14歳2カ月という史上最年少でプロ棋士になり、デビューから無敗のまま29連勝。そのなかには62歳6カ月年上の加藤一二三との対局も含まれる。駒の並べ方すら知らない人まで藤井に熱狂し、将棋ファンも増えている。

 文学界の藤井聡太、ともいうべき新人が鈴木るりか。『さよなら、田中さん』は作者14歳の誕生日に発売された。

 新人といってもこれが初めての本ではない。作者は小学生を対象にした文学賞「12歳の文学賞」で、小学校4年生から6年生まで、3年連続で大賞受賞。受賞作は各年度版の『12歳の文学』(小学館)に収録されている。『さよなら、田中さん』は、受賞作に大幅加筆した作品と書き下ろしからなる短編連作だ。

 小説は小学生の女の子「花ちゃん」を主人公に、その日常を描く。花ちゃんは生まれたときから父を知らず、母は工事現場で肉体労働。貧しいけれども笑いの絶えない明るい親子である。大人たちに向ける花ちゃんの毒舌まじりのコメントがユーモラスであり、ときどきホロリとさせる。

 ひとり親であることや両親の離婚について子供の目から描いた「いつかどこかで」。花ちゃんと母を、彼女らとは正反対の環境にある同級生から見た「さよなら、田中さん」。この2編の小説に挟むようにして、花ちゃんと母を描いた短編が三つ。全5編がたがいに絡まりあう全体の構成もすばらしい。

 63歳で文藝賞を受賞した若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社)と並べて読んでみる。14歳から63歳まで、文学の新人は幅が広いぞ。

週刊朝日  2017年12月8日号