本命の買い手候補が二転三転した東芝の半導体子会社、東芝メモリの売却交渉が9月20日、ようやく決着した。売却先の選定が混迷した本当の理由を探ると、日本経済に共通する大きな課題が見えてきた。
二度、俵に足が掛かった後、うっちゃりを決めての逆転劇──。東芝メモリ争奪戦は韓国の半導体メーカー、SKハイニックスを含む日米韓連合の勝利に終わった。
当初は、東芝メモリの事業パートナーで半導体工場を共同運営する、米ウエスタンデジタル(WD)が本命視されていたが、強硬な交渉姿勢が裏目に出て、敗北につながった格好だ。
●嫁取り合戦は混迷
紆余曲折の期間は7カ月以上。売却先の決定に至る過程は、情報リークによる競合つぶしや前言撤回が当たり前の、ルールを度外視した戦いだった。
何しろ東芝メモリは優良企業だ。同社の半導体フラッシュメモリーは、米アップルのiPhoneをはじめスマートフォンの主要部品。来るビッグデータ時代のキラー製品でもあり、メーカーにとっては、これを競合他社に奪われれば死活問題になる。
それ故、この優良企業の売却交渉は、花嫁を男たちが奪い合う“嫁取り合戦”の様相を呈した。だが、東芝メモリの“嫁ぎ先”選びは幸福感に満ちたものではない。なぜならその目的が、親である東芝の借金返済だからだ。
東芝は借金取りの銀行から、売却益で融資を返済するよう急かされていたが、東芝にとっても、売却を急ぎたい事情がある。来年3月までに売却できなければ2期連続の債務超過となり、上場廃止が避けられなくなるのだ。
この嫁取り合戦をさらに複雑にしたのが、産業革新機構や日本政策投資銀行という“手下”を連れて介入した経済産業省だ。
経産省は、まさにニッポン半導体ムラの村長で、ムラに住まう没落名家・東芝家の婚活に口を出し続けることになる。
村長の意向は「美しい花嫁をムラ(日本)から出さないこと」だ。だが、これは、花嫁の親である東芝自身の望みでもあった。まさに「持ちつ持たれつの関係」で、東芝メモリを日本に残すことが、売却交渉の至上命題になっていく。