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 こんな連ドラを待っていた。昨春で伝統が途絶えた昼ドラの復活はうれしいし、石坂浩二、浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、五月みどり、野際陽子、藤竜也、ミッキー・カーチス、八千草薫、山本圭ら、70~80代の名優をズラリそろえたキャストは壮観だ。

 しかし、最も歓迎すべきは、「本気の倉本聰」だろう。現在82歳の倉本は、2008年の「風のガーデン」以来、連ドラから約8年間遠ざかっていたが、一線から退いたわけではなかった。それどころか、自ら企画し、盟友たちに声をかけるなど、その創作意欲は全盛期と遜色なし。何しろ2クールの帯ドラマなのだから、書くほうも演じるほうも、体調を心配してしまう。

 舞台はテレビ業界を支えた人物が集う老人ホーム。主人公の役柄が脚本家であることから「倉本の代弁者ではないか」と思わせる直球の設定が心憎い。テーマは家族、財産と遺産、老いらくの恋、死への恐怖、仕事への心残りなど、高齢者にとっては思い当たるものばかり。ただ、登場人物に悲壮感はなく、むしろ青春ドラマのような初々しさを感じるシーンすらある。

 テーマよりも面白いのが、本音で語る“倉本節”だ。なかでも象徴的なのは、テレビ業界に向けた強烈なセリフ。「テレビをくだらないものにしたのはテレビ局」「いつまでたってもゴールデン神話から抜け出そうとしない」とぶちまけるセリフは、倉本の本音そのものだった。もはやセリフというより、個人的な批判に近いが、それが心地よいのは、日頃表現の幅を狭め、個性を消すような作品に辟易としているからか。

 倉本の個人的な批判は、別の問題にも及ぶ。温厚な主人公が「俺にとって一番体に悪いのはそこら中に書かれた禁煙ってあの文字だ」と激怒するシーンがあったが、これは喫煙者を締め出すような風潮への反発だろう。さらに医師が「無理してやめてストレスがたまるより健康にいい」「副流煙を嫌う人もいるが付き合わなければいい」と喫煙を後押しするシーンもあった。いかにも愛煙家の倉本らしいセリフだが、「俺はこれが言いたいんだ」とテレビマンにも視聴者にも媚びないスタンスは痛快。その意見に同意できなくとも、自らの信念を貫く仕事ぶりに、「これぞ脚本家。もっと好き放題やってくれ」と応援したくなってしまう。そもそも「やすらぎの郷」自体が倉本のユートピアであり、だからこそ筆が乗っているのかもしれない。

 まさに、老いてなお盛ん。テレビ業界の閉塞感をぶち破るべく、われわれに力づくで訴えかけるような倉本節を存分に楽しみたい。

※『GALAC(ぎゃらく) 6月号』より

木村隆志(きむら・たかし)/名優たちは若いころの美しい写真と現在の老いた姿をオーバーラップさせられるなど、ここでも制作サイドは容赦なし。女優といえども、年の取り方は人それぞれであり、その残酷なコントラストに深みがある。