マネやモネ、ゴッホなど西欧の画家を魅了した江戸の絵師、葛飾北斎。本書は、美術の専門家たちが『北斎漫画』の「動き」に焦点を当て、北斎の魅力を見直そうとしている。
北斎は動くものを徹底的に観察し、絵に残した。泳いでいる人、突風に吹かれて慌てふためく人々、鉦を叩きながら経を読む坊主、宙に舞う獅子。驚くのは、そうした動くものを通じて、水、風、江戸の音といった目に見えないものの動き、さらには人々の「心の動き」までが伝わってくることだ。それは、時代の「動き」を捉え、描き残そうとした北斎のメッセージであると著者は考える。
動くものを自在に描けるようあらゆる技法を貪欲に学び、一生を絵に捧げながらも、「自分には猫一匹さえ描けない」と晩年に言い涙を流した北斎の、高い理想とこだわりを感じる。
※週刊朝日 2017年4月14日号