クマスプレーの噴射姿勢=石名坂豪さん提供
クマスプレーの噴射姿勢=石名坂豪さん提供

幾度もクマと対峙してきた

 実績のある製品でも、正しく使う必要がある。カウンターアソールトの場合、4~5メートルの距離から使い切るまで噴射する。

 これまで石名坂さんはヒグマの「ブラフ(脅し)チャージ」と呼ばれる威嚇突進を「覚え切れないほどの回数」受けてきた。

クマと出合ったらスプレーの安全クリップを抜き、クマが突進してきたら距離5メートルを切った段階でスプレーを噴射します。それより手前でクマが止まれば、まだ『威嚇』ですから、噴射せずに、にらみ合いを続けながら、横目で足元を見つつ後退します」

 クマは下唇を小刻みに動かして、フーフー息をしながら石名坂さんをにらみ、「あっちに行け」とうながす。

「後退する際に転ぶと、それをきっかけに攻撃される可能性があるので、慎重に。クマスプレーはいつでも噴射できるようにしておきます」

練習用クマスプレーを噴射する様子=石名坂豪さん提供
練習用クマスプレーを噴射する様子=石名坂豪さん提供

クマスプレー「講習会」や「レンタル」も

 クマスプレーは使い方や使うタイミングが難しいため、石名坂さんは有料で使用法についての講習会(座学と練習用スプレーを用いた実習)も開いている。

 クマスプレーは飛行機に持ち込めないが、知床自然センター(斜里町)、木下小屋(同)、知床羅臼ビジターセンター(羅臼町)などで借りられる。料金は1100円/24時間(知床自然センター)。

「レンタル用に在庫している本数は限られるので、出発前にクマスプレーを購入して、陸送品として宿や宅配便の営業所に送る方法もあります」

最終手段は「戦う」ほかない

 クマスプレーを使用する前に不意に攻撃を受けたり、噴射しても攻撃が止まらない場合は、腹ばいになって顔や首を手とザックで守る防御姿勢をとる。

「ただし、防御姿勢はあくまでも、攻撃された際に致命傷を避ける手段であって、攻撃を受ける前から防御姿勢をとることはお勧めできません。身を小さくすることで『こいつは弱い』と思われ、かえって攻撃を招く危険性がある」

 クマが単なる攻撃から「捕食モード」に入ってしまい、防御姿勢をとっても攻撃がやまない場合は必死に反撃する以外に、「助かる可能性を高める方法はない」という。

「私はまだクマ相手にナイフを使用したことはありませんが、狩猟の際は、クマと戦う最終手段としてのナイフもライフル銃やクマスプレーと一緒に携行しています」

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