クマ撃退の実績の多いクマスプレー「カウンターアソールト」=石名坂豪さん提供
クマ撃退の実績の多いクマスプレー「カウンターアソールト」=石名坂豪さん提供

クマスプレーは事実上「唯一の道具」

 羅臼岳のヒグマ事故を受け、8月21日に知床財団が出した調査速報によると、被害者は鈴を身に着けていた。しかし、クマスプレーの携行や使用に関する証拠は「確認されておらず、不明」だという。石名坂さんは、こう語る。

「クマからの攻撃を受けた場合、クマスプレーは事実上、一般の人がクマを追い返すことのできるほぼ唯一の道具です。ただし、実績のある製品を正しい距離で噴射する必要があります」

 応戦と救助を試みた友人は「クマスプレー」をうたった製品を所持していたが、ヒグマに対応した製品ではなかった。使用を試みたが、噴射できなかった。

警察・自衛隊で使用実績「カウンターアソールト」

 現在、国内では10種類以上のクマスプレーが販売されている。自治体や国立公園管理団体、警察、自衛隊などでも採用実績があるのが米国製の「カウンターアソールト」だ。価格は2万円前後(CA230)。カプサイシン1.73%。噴射距離は約9.6メートル。連続噴射時間は約7秒。

 クマスプレーの主成分は、唐辛子に含まれるカプサイシンで、人や動物の体内に入っても害はない。しかし、ガス状になったカプサイシンを浴びると、目や鼻、口、のどなどの粘膜に焼けるような痛みが出て、呼吸が困難になる。

「私が知る限り、クマの研究者の多くが30年以上前から国内販売されてきたカウンターアソールトを使用しています。国内でクマの撃退に成功した事例の多くは、アソールトによるものでしょう。私自身、クマ撃退に成功したのは全てこの製品です」

安価な粗悪品も目立つ

 石名坂さんがことさら商品名を強調するのには理由がある。近年、ネット販売を中心に1万円以下の安価で“クマスプレー”が売られるケースが目立ってきたからだ。

 そうした商品は、実際は護身用や防犯用の対人催涙スプレーである可能性が高く、被害者の友人が所持していた製品もそのひとつとみられる。

 クマを撃退するには、スプレーのカプサイシン濃度や噴射時間が重要だという。石名坂さんはこう話す。

「カプサイシンの濃度が薄く、噴射時間が短ければ、いざ、噴射しても効果がないか、弱い。最悪、命を奪われてしまう。そうしたクマスプレーが幅を利かせることを非常に危惧しています」

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