人材不足を補う移民を受け入れないと…
わが国が人口減少を食い止めることは難しい。参院選の結果を見る限り、移民を受け入れ、日本で生活しやすくする方策は感じられない。恐らく、わが国のこの状況は続くだろう。今後も、人件費上昇で物価には押し上げ圧力がかかる可能性は高い。
その一方、賃金の伸びは鈍化することも想定される。これまで世界経済を牽引してきた米国では、トランプ政権が関税率を引き上げた。関税引き上げのコストを、最終的に負担するのは米国の消費者だ。値上げにより米国の個人消費は徐々に減少し、内外で企業業績の悪化懸念は高まるだろう。それはわが国の企業収益の低下を通して、賃上げにマイナスに働く。
これまで、わが国では春闘後の夏・冬のボーナスの時期に、名目賃金の上昇率が物価上昇ペースを上回る傾向にあった。これから賃上げのペースが鈍化するようだと、実質賃金の伸び悩みはこれまで以上に鮮明化するだろう。
「最悪のシナリオ」が現実になる
外国為替市場での円安進行と、エネルギー資源などの価格上昇で輸入物価が上昇し、国内の物価に一段と押し上げ圧力が掛かることも考えられる。その場合、国内の個人消費の停滞懸念は高まらざることになりそうだ。日本銀行は、より慎重に利上げを検討せざるを得ないだろう。
国内の景気が減速する中で物価上昇のリスクを抑えるには、政府が時代に適合しなくなったルールや規制を改革し、企業の新しい取り組みを支援する必要がある。新しいモノやサービスを開発する企業が増え、新しい需要を創出できれば、企業の内部留保や家計の貯蓄は消費や投資に回る可能性がある。それは経済成長を加速することも期待できる。ただ、構造改革が加速する兆しは見いだしづらい。
景気先行き不安が高まって個人消費は減少すると同時に、人件費などのコスト上昇圧力の高まりで物価が上昇する。それが最悪のシナリオなのだが、現在、わが国経済はそうした状況に向かっているように見える。わたしたちの生活は、これまで以上に苦しくなりそうだ。
(真壁 昭夫:多摩大学特別招聘教授)
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