体力のない中小企業がバタバタ倒れていく

 足元の物価上昇は、人手不足によるところが大きい。食品業界での値上げ理由を見ても、「2024年問題」に端を発するトラック運転手不足の影響は大きい。物流問題は、梱包やパレットの規格統一などにつながった。人手不足を発端に広範囲にコストは増加傾向だ。

 本来、企業が付加価値を増やすには、人件費などを上回るペースで売り上げが増えればよい。ただ、実際にはそう簡単な話ではない。特に、大企業に比べて経営体力が限られる中小の事業者の状況は厳しい。

 中小企業庁によると、本年3月時点で中小企業の価格転嫁率(下請け事業者がコスト上昇分をどれだけ販売価格に転嫁したか)は52.4%だった。昨年9月から2.7ポイント上昇した。その一方、中小企業の倒産件数は増加傾向だ。本年前半の中小企業の倒産実績は11年ぶりに多かった。

キユーピーがベビーフードから撤退する理由

 大企業にも人手不足の影響は及び始めている。一つの例は食品大手キユーピーだ。6月、同社は需要不足等の理由で育児食事業からの撤退を発表した。2026年8月末に生産を停止し、順次販売を終了する予定だ。同社の決定を見ても、事態の厳しさがわかるだろう。

 わが国の少子化の深刻化により、育児食の需要は急速に縮小している。事業を継続するためには、海外市場に進出するか、国内で高付加価値型の商品を開発・供給するか、その両方が必要になる。そのためにプロ人材の獲得は不可欠だ。

 それに加えて、人材獲得のコスト、さらには物流や資材価格の高騰によってコスト上昇圧力は高まる。その状況下で事業を続けると、育児食事業の粗利率は低下傾向を辿り、企業全体で収益性が棄損されるリスクは高まる。人手不足の深刻化によって、中小企業だけでなく、大手企業にも事業継続が困難になりつつあることは見逃せない。

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