
高い専門性求められるが介護報酬改定で給与減に
加えての要因が、「高い専門性が求められる割に、給与水準が低いこと」だ。理由の一つとして高野教授は「訪問介護には、他の介護分野と比べて非正規労働者が多い」ことを挙げる。
「訪問介護で『一日8時間ずっと、複数の利用者を訪問して働く』というスタイルは稀です。需要が集中する『忙しい時間帯』は比較的決まっていて、食事どきの朝と昼の時間帯や、家事支援が必要な人のために買い物などを行う『午後3時から5時くらいまで』の時間帯。それ以外の時間帯はニーズが少なかったりする。事業所を経営する立場からすると、『私は何曜日の何時から何時まで働けるので登録します』みたいな非正規の方を抱えておいて、その人に仕事を依頼する形じゃないと経営が成り立たないんです。事業所の収入の大部分を占める公定価格の介護報酬も、それを前提とした設定となっている実態があります」
もう一つ重要なのは、2024年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が2%程度引き下げられたことだ。「ひばり」の大澤社長は、怒りを隠せない強い口調でこう話す。
「引き下げで多くの事業所の経営が苦境に陥ったことに加えて、何よりも、がんばっている全国の訪問介護員の心をポキッと折ってしまった。国が報酬を下げるような仕事をこのまま続けていていいのか。そう思ってしまった人がどれだけいたか。この暑い中、自転車で走り回っているヘルパーさんたちの心を何だと思ってこういうことを平気でやるのか」
一方で、給与面など仕事の「負のイメージ」ばかりが強調されがちなことにも、違和感をもつという。
「終末期を迎えているご利用者様に『最後にあなたたちと会えて本当によかったわ』と言われて、サービスしながら涙が止まらなくなったこともある。皆に感謝され、やりがいのある、とてもいい仕事なんです。一日一件の訪問からでもいいので、興味ある方はぜひこの仕事に飛び込んできてほしい。そう願っています」
やりがいのある仕事。たしかに、取材では高齢のホームヘルパーたちがプライドと使命感を持って働く姿が印象的だった。自身も介護職に従事した経験がある東京医労連(東京地方医療労働組合連合会)書記次長の松崎実和さんも、こう話す。
「こんなに『ありがとう』といってもらえる職業ってそうないかもしれない。素敵な仕事だと思います」
しかし一方で、こう釘をさす。
「私たちが70代、80代のホームヘルパーの方たちに調査して出てくる声には、『あまりにも人手不足で、私がやめたらこの利用者さんのところに行く人が誰もいなくなってしまうのでは』という不安を抱えるなか、『やめるにやめられない』という声もひじょうに多いんです」