
訪問介護の現場で高齢化が進んでいる。70代や80代のホームヘルパーは珍しくない。なぜ訪問介護の仕事に人手が集まらないのか。AERA 2025年8月25日号より。
【気になるデータ】訪問介護事業の「倒産」件数の推移(グラフ)
* * *
東京都西東京市の訪問介護事業所「訪問介護 ひばり」。常勤・非常勤あわせて35人が働いている。社長の大澤幸一郎さん(48)はこう話す。
「人は足りていません。オーバーワークにならないよう配慮する結果、いただいた依頼を断らざるをえない状況も生まれています」
年齢層は40代が3人いるが、全体の約6割が60代と70代で、81歳のヘルパーも。そのうちの一人、三島和子さん(73)は、70代、70代後半、90歳の女性3人を担当。週に1回ずつ、片道20分ほどかけて自転車で訪問している。収入は「月に2万円ちょっと」だという。
「たとえば70代の方は脳梗塞で右半身が不自由なので、リハビリパンツ(ショーツ型の紙パンツ)を取り換えたり、デイサービスに行くためにリュックサックに入れる荷物を2人で点検したり、一緒に洗濯をしたり。介護保険は利用者の自立支援を促す側面が強いので、『一緒にやる』がとても大事なんです」
社長の大澤さんは、三島さんのような高齢のホームヘルパーには「強み」があると話す。
「長い経験と、利用者の方と同じ目線の高さであることによる気づきもある。若いヘルパーさんより安心してサービスに入っていただける面はたしかにあると思います」
ただ、マイナス面もある。
「以前は一日に6件、7件と訪問をこなせていた方も、高齢による体力的な問題で訪問件数が減ってきてしまう。そこはやはり大きいです」
では、なぜ訪問介護の仕事に人手、とくに若い人が集まらないのか。東洋大学教授で高齢者福祉・介護が専門の高野龍昭さんが「最大のポイント」と言うのが、ホームヘルパーに求められる「専門性の高さ」だ。
「訪問介護は、ヘルパーが一人で利用者の自宅で介護業務を行います。利用者には認知症の方も多く、イレギュラーなことも起きる。会社の中での業務なら先輩にすぐにアドバイスを求められますが、ヘルパーは新人であっても訪問先ですべて自分一人で判断し、対応しなければならない。非常に高い専門性が求められ、介護の仕事を志す人の中でもとくに訪問介護はハードルが高いんです」