関係の解消が大変なのは恋人よりも…

 当然、別れ際には夜の青梅街道を両手にストロング缶を持って半裸で走ってくる、酔って脅迫めいた電話をかけてくる、私の荷物を奪って新橋駅前広場を爆走、彼の家に残っていた私の服にすべて鋏を入れてから返してくる、など酔った上での奇行がたくさんありました。

 そこまでひどければ、関係を解消する決心をつけるのはそれほど大変ではありません。まして恋人だったら別れればいいわけです。ただ、仕事関係の知り合いや親族、友人となると関係を断つまでするには相当の覚悟が必要で、酒酔いの被害が我慢できるものであれば我慢してしまう、という例は多いのだと思います。

 私の父親も酔うと嫌味っぽくなるし、友人にも酔うと空気がまったく読めずに真面目に話している人の話を遮って場をしらけさせる名人がいるし、かつての職場の上司には乱暴な言葉遣いになったり説経臭くなったりする人がたくさんいました。いたのだけれど、やはりホームレスにものを投げつけるほどひどいことをするわけじゃないので、こちらが努力して水に流すという形で関係が続く場合が多いわけです。

 酒の失敗が多い人がズルいのは、「お酒の席だから」と大抵のことを流そうとすることだと個人的には思います。こちらが責めると、「無礼講の席でのことをねちねち言ってくる器の小さい奴」の役柄を押し付けられているようで、こちらだって別にそんなに硬いことを言っているわけではないのになんとなく損。「酔ってたんだから仕方ないじゃん」と開き直られて、なお責め立てるようなことを言えば、お酒の楽しさを知らない堅物扱いをされるかもしれません。

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