作家、コラムニスト/ブレイディみかこ
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 英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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 英労働党の前党首、コービンが新党を結成した。経済においても外交においても、もはや保守党と同じと批判されている与党労働党から離れた議員や支持者の受け皿を作るという。コービン新党の党員数はすでに労働党を抜き、一部での支持は熱狂的だ。結党前でさえ、LBCラジオによれば、コービン新党に投票すると答えた人は労働党と同じ15%になった。18〜29歳の層では、コービン新党支持が33%で、右派ポピュリストのリフォームUKも労働党も抜き1位だった。

 コービン新党の登録サイトは暫定的に「YOUR PARTY」(正式名称になるかもしれないという)を名乗った。思い出したのは、4年前、息子の高校探しで、学校見学に行った時だ。ある高校の政治の授業の部屋を覗くと、ホワイトボードにマーカーで二大政党の名前が書かれ、見学に来た学生たちが支持政党の名の下にマグネットをつけることになっていた。が、両党共にほとんど支持はついておらず、下のほうにマグネットがひしめきあっていた。誰かがマーカーで「MY OWN PARTY」と書いていて、その下にたくさん支持のマグネットがついていたのだ。「PARTY」は政党を意味するが、文字通りパーティーの意もあるので、英国のティーンらしいユーモアだと笑ったが、しかし、これはいよいよアナキズムの時代の到来ではないかと思った。

 コービン旋風は10年前にもあったので「いつか来た道」だが、今回は政党という組織のあり方に焦点をあてた点が違う。「非常にトップダウン型で、中央集権的」であり、「支配したがる統制主義者であふれている」労働党を否定し、新党は「地域主導で、地域に根ざし、草の根の力によって動く」「かなり連邦制的になる」と言う。垂直ではなく、水平な社会を目指すアナキズムの思想に寄っているのだ。

 大政党の衰退は、組織がタテ構造過ぎて硬直し、議員も支持者も「MY PARTY」と思えなくなったせいだろう。いくらボトムアップの政治を謳っても、理念に合わない組織構造では実現できない。垂直か、水平か。この軸で考え、組織する政治を、大政党からパージされた古参議員が始めようとしている。

AERA 2025年8月11日-8月18日合併号

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