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 やなせたかしさん、小松暢さん夫妻をモデルに、苦悩と荒波を越えてふたりが「アンパンマン」にたどり着く姿を描くNHK連続テレビ小説「あんぱん」(毎週月~土曜午前8時NHK総合ほかにて放送中)。21日から始まった第17週(第81~85話)は、のぶ(今田美桜)が嵩(北村匠海)に「先に東京に行って待っている」と言って高知新報を去った。高知出身の代議士・鉄子(戸田恵子)の元で働くことになったのぶは、せわしなく動き回る鉄子に必死についていく。一方、「赤いハンドバッグ」を今回ものぶに渡すことができなかった嵩は……。

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「この女性、あんたに似てる」から…

 今週、特に注目されたのが、8年間も嵩がのぶに渡せずにいる「赤いハンドバッグ」の存在だ。のぶへの想いを込めたこのバッグは、SNS全盛時代には考えられないじれったい恋愛の象徴として視聴者をヤキモキさせてきた。

「赤」は愛情表現の象徴のように思われがちだ。嵩の赤いハンドバッグといい、「赤いりんごに くちびる寄せて」で始まる名曲「リンゴの唄」(1945年)といい――。しかし実際は、その赤い物体があることで直接的な言葉を言えなくなってしまうのだ。赤いバラを渡すより「好き」と言う方が簡単なのに、赤い物を媒介にすると途端に照れくさくなる。

 信号の赤も「止まれ」を意味する。これは「赤の逆説」とでも呼ぶべき現象だ。一番情熱的な色は、一番回りくどいコミュニケーションを生み出してしまう。赤は実は情熱の色ではなく「待機」の色なのかもしれない。

 そんな中で、82話に隠れたポイントがあった。東京で戦災孤児問題に取り組むのぶは、浮浪児アキラと出会う。アキラは、嵩が書いた『月刊くじら』の表紙の女性を見て「この女性、あんたに似てる」と何気なく口にしたことだ。

  嵩はというと、のぶの上京後、まったく仕事が手につかない大スランプに。スランプの嵩を奮起させようと、東海林編集長(津田健次郎)が、「手嶌治虫」の漫画を見せるも逆効果。天才との比較で嵩の自信は逆に失われていく。

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