『松本清張の女たち』(1870円〈税込み〉/新潮社)1992年8月に死去した松本清張。だが、没後30年以上を経ても読まれ続けている。その人気の秘密は、女性を描いた作品群にあるのではないかと考えた著者が、さまざまな角度から、清張が時代とともに変わってきた女性の生き方をどう描いていったかにスポットを当てる。埋もれていた清張作品の再発見ガイドでもあり、まったく新しい清張研究の書でもある
『松本清張の女たち』(1870円〈税込み〉/新潮社)1992年8月に死去した松本清張。だが、没後30年以上を経ても読まれ続けている。その人気の秘密は、女性を描いた作品群にあるのではないかと考えた著者が、さまざまな角度から、清張が時代とともに変わってきた女性の生き方をどう描いていったかにスポットを当てる。埋もれていた清張作品の再発見ガイドでもあり、まったく新しい清張研究の書でもある

 女性の存在感が強い清張作品と言えば『黒革の手帖』のような悪女ものが浮かぶが、実は酒井さんが〈お嬢さん探偵〉と命名する、素人探偵が活躍する作品群も多いのだ。

「女子大出だったり高キャリアだったり、当時の女性読者が我が身を重ねやすい部分もありながら、ちょっと憧れを抱くことができるような人物を探偵役に据え、女性たちを推理小説の世界へ誘ったわけです。女性誌で多く登場させた〈殺す女〉同様、〈お嬢さん探偵〉も“清張と女性”を考える上では、重要な存在なのではないかと思いました」

 取材を始める前と後で清張に対する印象でもっとも変わったのは、昭和を生きた男性なのに女性をフラットに、人間として捉えていた知的な視線の持ち主だったことだという。

「女性の役割みたいなものが女性にまだ押し付けられていた時代に、女性を男性と同等の欲望を持つ存在として描いたのが清張。誰もが持っている黒い部分やえげつない欲望を、彼が小説の中に落とし込んでくれたから、読者自身は悪事を働くことなく欲望を浄化させることができた。そういう一種の消化剤的な役割もあったのかもしれません。現代にも通じる感覚だからこそ、清張作品は読み継がれているのかなと思いますね」

(ライター・三浦天紗子)

AERA 2025年7月28日号

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