
「日本はアメリカに比べ金融教育が遅れている」とよく言われるが、金融商品の教育を強化しても意味はない。金融は本来、お金を必要な人に届ける仕組みだ。アメリカでは多くの若者がこの仕組みを利用して起業や新しい挑戦をしている。一方日本では金融商品の知識ばかりが教えられ、本質が伝わらない。
もしスティーブ・ジョブズが日本式の金融教育を受けていたら、「将来のために堅実に資産運用を」と考えて大学を中退して起業しなかったかもしれない。そうなれば、iPhoneという革新的な商品は生まれなかっただろう。金融機関の営業目的の教育で、本当に豊かな未来が作れるとは思えない。
親世代は就職氷河期を経験し、頑張っても報われない状況を味わった。だからこそ「労働より投資」と考えてしまう気持ちは分かる。しかし、投資は努力が必ず報われる世界ではない。資産があれば運用は有効だが、子どものうちから焦って学ぶ必要はない。
終身雇用や年功序列が崩れ、転職が当たり前になった今、人手不足が深刻化する日本では、働くことがより報われやすくなっている。子どもたちがこれからの時代を生き抜くために必要なのは、資産運用の技術より「働いて稼ぐ力」だと思うし、「投資される側」になるという選択肢も教えた方がいいだろう。
※AERA 2025年7月28日号
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