たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など
たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 昔は日本銀行に現金を持って行けば金と交換できた。だから「現金=金」と考えられたが、今は日本銀行の保有資産の大部分が日本国債だ。つまり日本国債の信用力と日本銀行が発行する現金の信用力はほぼ同じと考えるべきだろう(こうした議論をするときに、よくギリシャ国債が引き合いに出されるが、ギリシャの場合は、ユーロを発行する欧州中央銀行とギリシャ政府の比較なので話は変わる。長期国債の金利上昇についても、長期的な流動性リスクを伴うので別の要素が加わる)。

 ただし、「国債をどんどん発行してお金を増やせばいい」という単純な話にはならない。今のインフレは海外からの輸入品の物価が上昇していることが原因だ。物価高になった分、お金が配られても、そのお金は食料やエネルギーを輸入するために海外に流れていく。その過程で、円を売ってドルを買うので、結果、ますます円安が進んで物価高が進むことになる。

 仮に「国債を増やしても破綻しない」という議論が正しくても、長期的な通貨安や物価高にどう対応するかという視点を欠いては現実的ではない。参院選を前に各党の政策を見るとき、そうした視点を持つことが求められるだろう。

AERA 2025年7月21日号

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