長編小説「国宝」を書きあげた吉田修一さん(photo 写真映像部・東川哲也)
長編小説「国宝」を書きあげた吉田修一さん(photo 写真映像部・東川哲也)

「楽屋に入ればいい」と即答

 2015年12月、 東京・麻布の和食屋で、鴈治郎さん、吉田さん、由美さん、私の4人で食事の席を設けて、鴈治郎さんに取材協力のご依頼をしたところ、「だったら、黒衣の衣装を用意するから、それを着て、自分の楽屋に入ればいい」と即答されたことが何より印象に残っていて、ここから『国宝』が動き始めたと言ってもいいくらいの出来事でした。

 そこからは、とんとん拍子に話が進み、吉田さんは鴈治郎さんの出演される演目があるごとに、歌舞伎座、松竹座、博多座、御園座、こんぴら歌舞伎、京都の歌舞練場と日本全国の劇場で鴈治郎さん付の黒衣として立ち回っていくわけです。

――朝日新聞朝刊での連載は2017年1月1日にスタートし、2018年5月29日まで続いた。

 歌舞伎を題材にした小説を吉田さんが書かれることが先に決まり、では、どこで書いていただくかと考えたところ、やはり大きな舞台だろう、と。親しくしていた朝日新聞の文化部のデスクに相談をしたところ、朝日新聞の朝刊連載が決まったという流れです。

『国宝』という作品は、取材と考証、資料収集だけでなく、確かな校閲といったバックアップが必要なことも承知していましたから、新聞連載でなければ成立しなかった作品でしたし、そうした意味で、当時の連載小説のデスク、担当者、校閲の支えが、吉田さんにとって大きな力になったことは間違いないと思います。

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