
注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2025年6月30日号より。
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大熱戦が続いたシリーズは、結末もまた劇的だった。
伊藤匠叡王(22)に斎藤慎太郎八段(32)が挑戦した第10期叡王戦五番勝負。第5局は6月14日、千葉県柏市でおこなわれ、120手で伊藤が勝利。伊藤は3勝2敗で叡王位防衛を果たし、2連覇を達成した。
「悔しい……というのが、はい、正直な気持ちです」
穏やかな性格で、普段は決して感情を表に出さない斎藤が、局後にそう悔しがった。それだけの逆転劇だった。
「もしかしたら、タイトルが近いんじゃないか」
斎藤は対局中にそう思ってしまったという。斎藤だけでなく、観戦者の多くもまた、斎藤の7年ぶりのタイトル保持は間近と感じていた。しかし伊藤は粘り強い指し回しで屈せず、叡王位を守り抜いた。
「今回のシリーズを振り返っても、ずっと押されている時間が長かったですし。本局もかなり厳しい形勢が続いて、失冠を覚悟するような場面もあったと思うので、本当にこういう結果につながったのは不思議な感覚というか。そういう感じがしています」
伊藤は記者会見でそう語った。本局は将来、伊藤の棋士人生を語る上においても、重要な一局となりそうだ。
2018年、将棋界ではタイトル通算2期で八段昇段という規定が設けられた。伊藤は今回、この条件を満たして七段から八段に昇段した。
「あまり意識はしてなかったですけど。よかったかなと思います」(伊藤)
過去にはそうした規定がなかったため、一概に早さは比較はできないが、伊藤の22歳8カ月での八段昇段は、戦後7位の年少記録となる。
現在の将棋界の席次は1位は藤井聡太七冠(22)で、2位が伊藤だ。タイトル戦で藤井を倒したことがあるのは、まだ伊藤一人だけ。両者による大きな勝負もまたいずれ、どこかで実現するだろう。(ライター・松本博文)
※AERA 2025年6月30日号
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