
当時は理系出身者の金融業界への就職は珍しく、難関大の数学科を出た東社長の頭脳が期待された。
「日興は金融エンジニアリングの最先端を走っていたMSCIバーラ社と提携していて、新しい投資モデルを作る仕事に巻き込まれた感じです。
夜行列車に乗って地方の工場へアナリストとして視察に行くイメージだったのに、なんだか違いました(笑)」
「資産運用理論の研究でノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・シャープ博士と効率的な資産配分モデルの開発に取り組みました。
カリフォルニア州のスタンフォード大学近隣に先生の事務所があり、家族ぐるみの温かい雰囲気でした」
日興には約30年間、在籍した。
爆売れ楽天インデックス
東社長が楽天グループに転じたのは2016年1月。最初はロボアドバイザーの提案をもとに運用を任せる「楽ラップ」を立ち上げた。
楽天証券の楠雄治社長から「残高は簡単には増えないでしょうが、がんばってください」と言われたという。
「前職で投資信託部長のような仕事をしていた頃、運用を一任するラップ口座で苦労しました。残高が短期間で急変動するビジネスでなかなか安定しなかったんです。
会社中枢から『もうやめては』と言われたことも。その頃から、どうすればお客さまに長期保有してもらえるかを考えていました」
「楽天・全米株式」「楽天・全世界株式」などを筆頭とした「楽天・インデックス」シリーズは「長期・つみたて・分散」という新NISAで是とされる条件に合致する。長く持ってもらえる金融商品の理想形の第一歩だった。
「楽天・インデックス」シリーズの「中身」は米国バンガード社の海外ETF(上場投資信託)1〜3本のものが多い。
本誌の勝手な表現だが「海外ETFを買うだけ投信」であり、だからこそ低コストを実現できた。
2017年の設定時に「楽天・全米株式の中身はバンガードの海外ETF1本」と知り、驚いたものだ。
国内の老舗運用会社は「運用とは……」という皮肉な視点で楽天投信を眺めていたはずだ。
だが、バンガードETFをくるんだ投資信託は爆発的に売れた。大成功である。